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パーティー当日、翠はモーヴの花柄レースをあしらったショート丈ボレロとキャミソールワンピースを着て蒼也と二人で会場に入った。
最上階のラウンジを借り切った会場は、そそり立つ高層ビル群の明かりが散らばる夜景に囲まれ、宇宙空間に浮かんでいるような錯覚にとらわれる。
二人を見つけて悠輝が手を振っている。
「やあ、来てくれてありがとう。なにしろさ、創薬ベンチャーのCEOを友人だって紹介できれば箔がつくからね」
「おまえの都合で俺を利用したのかよ」
蒼也の抗議を受け流しながら悠輝が翠に顔を向けた。
「素敵なドレスだね。清楚な雰囲気がすごく似合うよ」
「蒼也さんに選んでもらったんですよ」
「へえ、そうなの、蒼ちゃんにしてはいいチョイスだね」
「翠なら、何を着ても似合うだろ」と、蒼也が口を挟む。
「はいはい、ごちそうさま」
おどける悠輝のおかげで翠も笑顔を浮かべていられるが、実際のところはミサラギホテルのブティックでお勧めされるままに試着して決めただけだ。
どう見ても、衣装に負けている。
七五三でかしこまって写真に収まる子どもと変わらない。
さらに本心を言えば、翠はパーティーそのものに乗り気ではなかった。
幼い頃に父に連れてこられたパーティーで、壁際に座って終わるのを待っていたあの退屈な時間をどうしても思い出してしまう。
あの時も大人からは場違いな子どもだと迷惑がられていたんだろう。
それがきっかけで蒼也と出会ったわけだが、決してパーティーそのものを楽しんだことはなく、ああいう場所に自分の居場所はなかったのだ。
『翠ちゃんがOKなら、蒼也も来るっていうからさ。頼むよ』
悠輝にそんな言い方をされて断れなかったことを、会場に到着してもなお後悔していた。
照明を抑えた会場には、協賛企業のロゴを立体化した派手な色のオブジェがあちこちに置かれ、映えを狙う配信者たちが写真を撮り合っている。
「わあ、悠輝さん! 写真いいですか?」
フォロワー百万人超えの配信者だけあって、悠輝の周囲には早速人の輪が何重にもできる。
「ふだん、あんまり意識しないですけど、悠輝さんって有名人なんですよね」
「そうなんだろうな」
蒼也は興味なさそうに会場を見回している。
旅行系やグルメ系など、翠も見たことがある配信者もいるが、ゲームキャラクターTシャツのグループや、コスプレの人々のことはよく分からない。



