力の抜けた翠の背中に手を回し、首をかしげるように上体をかがめながら蒼也がまっすぐな目で見つめる。
「翠」
緑がかった茶色の瞳が迫ってくる。
「初めて会ったあの日から、ずっとこの時を夢見てきたよ」
はあ。
ずいぶん、手の込んだお芝居ですこと。
そんな導入部から始めなくてもいいんじゃないですか。
どうせ形ばかりなんだし。
「ずっと愛していたよ、翠。これからも愛してるよ」
翠が目を閉じると、蒼也の唇がそっと重なった。
出会った時から二十年。
生まれて初めて交わしたキスだった。
――あれ?
ちょっと、どうしたんですか。
軽く振りだけのはずだったのに、蒼也は唇を離さない。
離すどころか、むしろ背中に回した手に力がこもっているような……。
演技なのに心臓が止まりそう。
あ、あの、いつまでやってるんですか。
肺活量競争みたいじゃないですか。
本当に演技なんですか?
そんなに人前でじっくりお見せするようなものでもないと思うんですけど。
ツッコミに疲れ、お芝居にしては情熱的なキスに気が遠くなりかけた時、ようやく蒼也が顔を離した。
翠が目を開けると、あれほどまっすぐに見つめていた蒼也が目を泳がせていた。
「演技ですよね」
翠が抗議すると、蒼也の顔が真っ赤に茹で上がる。
「も、もちろん」
キスは上手だけど、役者としては大根ですよ。
二人並んでベッドを向くと、幸之助は目を閉じて静かに胸を上下させていた。
「じいさん、寝てる」と、蒼也が笑みをこぼす。
はあ。
今の結局、何だったんですか。
口をとがらせる翠に蒼也が顔を寄せてささやいた。
「損したとか言うなよ」
「言いませんよ」
――ていうか、そっちは損したと思ってるんですか。
ちょうどそこへ看護師さんが入ってきたので、二人は退出した。
「翠」
緑がかった茶色の瞳が迫ってくる。
「初めて会ったあの日から、ずっとこの時を夢見てきたよ」
はあ。
ずいぶん、手の込んだお芝居ですこと。
そんな導入部から始めなくてもいいんじゃないですか。
どうせ形ばかりなんだし。
「ずっと愛していたよ、翠。これからも愛してるよ」
翠が目を閉じると、蒼也の唇がそっと重なった。
出会った時から二十年。
生まれて初めて交わしたキスだった。
――あれ?
ちょっと、どうしたんですか。
軽く振りだけのはずだったのに、蒼也は唇を離さない。
離すどころか、むしろ背中に回した手に力がこもっているような……。
演技なのに心臓が止まりそう。
あ、あの、いつまでやってるんですか。
肺活量競争みたいじゃないですか。
本当に演技なんですか?
そんなに人前でじっくりお見せするようなものでもないと思うんですけど。
ツッコミに疲れ、お芝居にしては情熱的なキスに気が遠くなりかけた時、ようやく蒼也が顔を離した。
翠が目を開けると、あれほどまっすぐに見つめていた蒼也が目を泳がせていた。
「演技ですよね」
翠が抗議すると、蒼也の顔が真っ赤に茹で上がる。
「も、もちろん」
キスは上手だけど、役者としては大根ですよ。
二人並んでベッドを向くと、幸之助は目を閉じて静かに胸を上下させていた。
「じいさん、寝てる」と、蒼也が笑みをこぼす。
はあ。
今の結局、何だったんですか。
口をとがらせる翠に蒼也が顔を寄せてささやいた。
「損したとか言うなよ」
「言いませんよ」
――ていうか、そっちは損したと思ってるんですか。
ちょうどそこへ看護師さんが入ってきたので、二人は退出した。



