ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に

 と、そんな話をしているうちに、もう料理はなくなっていた。

「だけど、実際、作る時間に比べたら、食べるのはあっという間だよな」

「きれいに食べてもらえるとうれしいよ」

「まあ、なんだ。あっという間に食べ終わるのは、おまえの料理がうまいからだろ」

「なんか上から目線なんだよな。評論家っていうより、ネットによくいる鼻につくレビュワーっぽい。褒めると負けみたいな、ただ難癖つけたいだけのシロウト」

「おまえの方が辛辣だろ。自分から炎上の種をまくスタイルとはな」

「充分気をつけてますよ」

「ごちそうさま」と、蒼也が率先して皿をカウンターへ運んでいく。

 ――そういうところはちゃんとしてるんだよな。

 ただそれは、早く仕事を再開したいからというのもいつものことで、べつに皿洗いを手伝うわけでもない。

 二人でやっても非効率だろ、とあくまでも合理的なのだ。

 ――夫婦っていうのは、合理性だけで片づけちゃいけないと思うんだけどな。

 そんな相手の不満を読み取ることなどできそうにない男だから、悠輝は蒼也のことが心配でならない。

 なにしろ、目の前でもう本人は相棒に片づけを任せて、早速タブレットを引き寄せ、また画面とにらめっこを始めているのだから。

「悠輝、明日の夜はメシいらないぞ」

「そうなの。残念」

「悪いな、アポが取れたんで食事会になった」

「まあ、いいや。僕もネット仲間の交流会に誘われてたから顔を出しておくよ」

「そうか。楽しんでこいよ」

「翠ちゃんも行くかな」

 悠輝は視界の端に蒼也の姿を捉えながらあえてつぶやいてみた。

 だが、蒼也は教会の柱から見下ろす聖者の彫像のように冷徹な表情を変えない。

「有名な配信者がたくさん来るから喜ぶかも」

 煽ってみても、眉一つ動かさない。

 皿を洗い終えた悠輝は蒼也のそばに歩み寄ってラグの上に腰を下ろすと、自分のスマホを取り出し、蒼也に突き出した。

「ねえ、ほら、見てよ。いい写真だろ」

 スカイツリーが真横に見えるタワマンで開催されたホームパーティーで、悠輝と翠がピタリと寄り添って画面に収まっている。

 その時は二人とも誘っていたのだが、仕事の都合で蒼也にドタキャンされて、翠にだけ来てもらったのだ。