「そのようだな、ガブリエラ……舞踏会はまだ始まったばかりだ。今夜の終わりまでには、僕たちはそれぞれ望むものを手に入れているだろう」
そう、ゆっくりと言ったヒューバートは、妹をじっと見下ろしながら一歩前に進み出た。
その動きもまた、必要以上にゆっくりとしていて、ガブリエラは急かすように手をさらに前へ伸ばす。
ヒューバートはうなづいて、静かにガブリエラの手を取ると、その甲にゆったりと親愛の口付けをするふりをした。
軽率さと上品さの混じったヒューバートの物腰に、この、社交的でありながら浮ついた仕草はよく似合う。
「ノースウッド伯爵夫人を誘惑して僕のものにする……。奴の嫉妬と悲しみにゆがんだ顔が目に浮かぶようだ」
「その通りですわ。それでこそお兄さまよ」
普段なら気持ちよく感じるガブリエラのおだても、今のヒューバートの心にはあまり響かなかった。
しかし。
これが僕の欲しいものなんだ、と、ヒューバートは何度か繰り返して胸に刻みつけようとした。
ツン、と誇り高い猟犬のようにあごを上げたガブリエラをエスコートしながら、ヒューバートは書斎から出るべく扉に手を掛けた。
キイッと音を立てて扉が開くと、薄暗かった書斎に、華やかな光とにぎやかな舞踏会の騒ぎが入ってくる。
ヒューバートは胸をそって顔を上げた。
そのまま書斎を出ると、すぐに人々の波に飲まれ、まるで新しい世界に放り込まれたかのような熱気に包まれたが……ヒューバートの心はなぜか虚ろなままだった。
そうだ、これこそ。これこそ僕の欲しいものなはずなんだ。
しかし。
──しかし……?


