「オリヴィア」
それでも、剛鉄の自制心はエドモンドの声をなんとか落ち着いたものに抑えていた。ただし、聞く者が聞けば、その声に不穏な揺れが存在するのに気がついただろう。
「一体……あなたが何を分かっているのか、説明して欲しいものだが」
「それは……」
夫の低い声に、オリヴィアは少しびくついたが、彼から目を離すことはなかった。
ほっそりとした首を伸ばして、二人の身長差を埋めようとするようにまっすぐに背を正す。その姿は威勢がよくて可愛らしい女狐のようだった。
「あ、あなたが、いつまでも私たちは別れるべきだと決め付けていることが、です! あんな……あんなことがあった後でもまだ同じように考えていらっしゃるなら、私はもう、覚悟を決めるときが来たんだわ。見ていてください!」
そう言い切ったオリヴィアは、ぽかんと呆気に取られたエドモンドを残して、素早くきびすを返した。
ドレスのスカートの裾を両手で軽く持ち上げ、踵のついた細い靴で歩けるうちで一番早い速度で、つかつかとエドモンドから遠ざかっていく。
突然の予想外の展開に、エドモンドはしばらく立ち尽くしていた。


