「結婚したとなれば話は別じゃないか。君の場合は特にね、一生独身を貫くんじゃないかと皆が思いはじめていたところだったからね」
対抗するようにぐっと首を引いて、ヒューバートは言った。
「私の私事について興味のある人間がいるとは思わなかった」
と、エドモンド。
「我々貴族はお互いの近状について興味を持ち合うものだよ、エドモンド」
エドモンドはもう少しで、ふんと相手をあざ笑うところだった。
結局のところ、近状とは醜聞に他ならない。現実主義者のエドモンドにとって、社交界の醜聞など紅茶の一葉ほどの価値もない。
愚かにも扉の外にばかり気を取られていたせいで、採寸室にこんな厄介な敵がいるとは思ってもみなかったエドモンドは、じりじりと威圧的に相手に歩み寄って不快感をあらわにした。
できるならローナンが気を利かせてオリヴィアを外に連れ出してくれるのを期待したが、のん気な弟は片手を口元にそえて場面を楽しんでいる。
すると望みは、オリヴィア自身が不穏な空気に気付いて、この場を離れてくれることだった。
(外に出なさい、マダム)
エドモンドはちらりとオリヴィアを振り返ると、そう、素早く唇だけ動かして意向を伝えた。
(ここは安全ではない──ローナンと外に出るんだ)
それは伝わったかに思えた。
座ったままだったオリヴィアはひらめきに水色の瞳を輝かせると、いっそ勇ましいといっていいほどの勢いですくっと立ち上がったからだ。
オリヴィアは喜び勇んで立ち上がった。
普段のエドモンドの言動は概して難解であったが、今回は分かりやすいサインだった。
こちらを振り返ったエドモンドは、素早く唇だけを動かしてなにかを言った──はっきりすべてを見分けられたわけではないが、「出る」、「ここ」という二つの単語だけはオリヴィアも理解することができた。
さしずめ、
『ここに出てきなさい、マダム。きちんとヒューバート氏に挨拶をするんだ』というところだろう!
オリヴィアの胸は躍った。
夫の横に並び、印象のよい初対面の挨拶をする心構えは万端だった。


