Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜


 そんな二人の姿をじっくりと眺めながら、マーガレットは満足そうに微笑んだ。
 しかし、それはただの微笑みではなく、これから起こる波乱を一人だけ知っているという優越感からくる、満足と好奇心の微笑みでもあった。

 ──エドモンド・バレットは意志の強い男だ。

 彼はそういう風に生まれ、そういう風に育ち、そして今ではその鋼鉄の意志をもって、この可愛らしい新妻を守ろうとしている。
 禁欲を誓うこの男と、快楽を求めるあの男が、小さくて美しい伯爵夫人を奪い合うさまはなかなか見物だろう……。

 マーガレットは素早く立ち上がると、

「そうでしたわ……もう少しで紹介が遅れるところでしたわね。今日は、実はもうお一方、お客様がいらしていますの」
 と言いながら、店の奥へ進んだ。

 マーガレットの仕立て屋は細長い造りになっていて、奥へ入ると分厚いカーテンに仕切られた採寸室があり、デザインを決めた客はそこで寸法を測る仕組みになっている。

 普段はぴったりとカーテンで閉ざされた空間だったが、マーガレットが紺色の仕切りに近付くと、それは小気味いい音をシュッとたてて、ひとりでに大きく開いた。
 そして、一人の男の影が現れた。

「やあ、エドモンド」

 ──という、都会風のアクセントが聞こえた。

 そして、

 ベージュのベストで華やかに上半身を固めた金髪の男がカーテンの影から進み出て、不自然な斜めの角度に構えると、白い歯を見せてニヤリと笑ってみせた。

「そして──レディ・ノースウッド、お目にかかれてこの上ない幸せです。僕はヒューバート・ファレル卿。どうか以後、お見知りおきを」

 エドモンドのダーク・ブロンドとは違う本物のプラチナ・ブロンドを輝かせながら、ヒューバート・ファレルは華麗に登場した。

「ヒューバート? なぜお前がここに──」

 エドモンドが立ちはだかろうとする前に、ヒューバートは素早くオリヴィアの前に躍り出ていた。
 それはまるで計画されていたような無駄のない動きで、カーテンの陰から出てきてオリヴィアの手を取るまで、三秒とかかっていない。
 オリヴィアは微笑む暇さえなかった。

「美しいレディ」

 ヒューバートは両手を使って、オリヴィアの自由な方の手を取った。
 驚きに目を見開いているオリヴィアを覗き込んだヒューバートは、また不自然な斜めの角度に首を曲げると、白い歯を見せて微笑んだ。

「隣人のよしみとして、どうかこの口付けを受け取っていただきたい。僕はサウスウッド伯爵でもある──ノースウッドのすぐ南にある、豊かな領地の領主です」

 そしてオリヴィアの白い手の甲に口付けを落とした。
 まるで宣戦布告のように、それは嫌な音を立てた。