そして、マーガレットは自分が描いたスケッチをその場で破り捨てた。
背後でローナンが笑い出すのが聞こえて、オリヴィアは振り返って彼をねめつけた。義弟はそれも面白がるばかりで、たいした抑制にはならない。
続いて、オリヴィアは恐る恐る入り口に立ったままのエドモンドをうかがったが、彼は店の中のやりとりよりも扉の外に気を取られているようで、こちらを見ていない。
(も、もう……っ)
結局そのあとに、またいくつかのスケッチがマーガレットから提案され、その中で最も貞淑だと思えるものを二つ、オリヴィアは注文した。
マーガレットはぶつぶつと文句を呟いたが、これ以上、この先、上客の一人になる可能性のある伯爵夫人の決定に逆らうことはしなかった。
「でもいつか、あなたの為に最高のドレスを作らせていただきたいわ」
選ばれたスケッチを横にどけながら、マーガレットは言った。
「そうですわね……お世継ぎができて、お腹が大きくなる前に」
すると、一同がしんと静まり返り、ついにエドモンドは窓から振り返ってオリヴィア達の方を向いた。
当のマーガレットは慎重にエドモンドの視線を避け、じっとオリヴィアを見ている。オリヴィアは顔色を曇らせ、唇をわずかに開いたまま無言でマーガレットを見つめ返していた。
──エドモンドはすぐに行動に出た。
「マダム」
長い足を有利に使い、たったの二歩で店内を横切ると、エドモンドはオリヴィアのすぐ横に立った。
「心配はいらない。彼女はどれだけ子供を産んだ後でも、細身なままだろう」
エドモンドの手がオリヴィアの肩に触れた。
いや、触れただけではない。彼の指はオリヴィアの肌に食い込んでいて、痛いくらいだった。
「私たちは近く、何人もの子供をもうけるだろうが、彼女は変わらない。姿も、声も、形も、何もかも」
エドモンドは宣言した。
息を呑んだオリヴィアは、思わず隣に立つ大きな影を見上げた。
エドモンドは誇り高く顔を上げて大地を守る獅子のように、毅然とした態度で仕立て屋の女主人を見ている。
驚きを隠せなくて、オリヴィアはもう一度息を呑み、呼吸をはやらせた。
どうして……。
エドモンドが意図したのは、ただオリヴィアの名誉を守ることだけだ。それは分かったけれど、彼の声で確かに紡がれた言葉は、オリヴィアの心を揺さぶるだけの力があった。
たとえ、嘘でも。
嘘だと分かっていても。
エドモンドの手がオリヴィアの肩を滑り、そのまま彼女の手を握るにいたると、もう呼吸を続けることさえ難しくなってくる。
身体の芯が疼いて、このまま彼の腕の中に倒れてしまいたいような衝動に駆られ、苦しくなる……。
「ノースウッド伯爵……」
オリヴィアが声を漏らしても、エドモンドは毅然としたままだった。


