でも――
「だったら、あたしとは、なんで? なんであたしと入れ替わろうなんて思ったの」
「神様のいうとおり」
「え? それがおまじないの方法?」
「ど、れ、に、――」
キリコはでたらめに空中で指さしをした。
「――し、よ、う、か、な、って」
最後にあたしを指した。
「は?」
あたしは思いっきり間抜け面になっていたのだろう。キリコはクスリと笑った。
「冗談」
「もう、キリコも陽向くんもくだらない冗談ばっか言わないでよ」
「陽向の冗談は本当につまらないでしょ?」
生意気どころじゃない。ちょいちょい「わたし、陽向のこと知ってます感」だしてきて、イラついた。これだったら反感買うのもわかる。
だが、今はそれどころじゃない。
「どっちもつまらないっていうの。それで、なんなの」
「もしも本当に入れ替われたらって、いろんな想像をしたのね。それで本当に入れ替わったときのことを考えて、まず財布とかタブレットとか必要なものを持ち出して、駅のロッカーに預けておいたりとか」
「はぁ?」
なんたる周到!
こっちは原始人並に苦労したというのに。涼しい顔してそんなこというか。
「入れ替わったときの想像をしたら本当に楽しかった。この人だったらあんなふうかなとか。でも、誰だってかまわないって思いながら、やっぱり最後は音無さんの手をつかんでた。こうなりたいって思ってたんだろうね。すらっとしてて、かわいくて、毅然としてて」
この期に及んで持ち上げてくる浅ましさにあきれる。
あたしはなんの努力もしてないと思われているのか。背筋を伸ばして陽キャに振る舞い、『かわいい』を吸収して自分を磨き、友達ともうまくやりとりしてハブられないように頑張ってきたのに。
自分だけ初めから損していると思っているのか。そんなわけはない。いじめる理由なんてなんとでもなるのだ。
人と人が関わり合うなら、いつだっていざこざが起こる可能性をはらんでいる。
渡り合う努力だって必要なんだ。
キリコがいじられ対象となって、どうにもこうにもならなくなって、声を上げられなかったのは不幸なことだ。
キリコはなんにも間違ったことはしていない。
なんなら悪いのはこちら側だ。
だけど、あたしとキリコが入れ替わってキリコを体験してみたところで、罪滅ぼしをしようだなんてあたしは思わない。
あたしはキリコの代わりに気持ちを奮い立たせて、キリコが今置かれている状況から抜け出すめどをつけてあげようとか、そんな気力はない。
なんでキリコのためにそんなことをしてあげないといけないんだって、反発している。
ごめんね、キリコ。それがあたしの本音なんだ。
でもね――
「キリコ、それは勘違いしてる」
あたしはきっぱりといった。
「あなたがあたしになって、この先安泰だなんて思わないほうがいい。ちょっとしたことで潮目が変わるし、自分でこんなこというのもあれだけど、あたしが入れ替わったことを双葉も友梨奈も気づいてないなら、あたしら、お互いを利用していた薄っぺらい関係でしかなかったんだよ。そんなんでも、あたしはいいと思ってるけどね」
最後はちょっぴり強がったが、ふたりと縁を切りたいと思っていないのは本当だ。
あたしだって余裕があるわけじゃない。
あたしが音無花音に戻ってもキリコのことを救う勇気はない。
だけど、一緒になら戦える。
「キリコ、あんた逃げたでしょ。先輩にからまれて、どうしたらいいかわからなくて、自分では決めず、選択をあたしに託した。誰かがそう決めたのなら受け入れざるを得ない。今までがそうであったように。でもね、キリコが考えたその選択肢の中に、あたしの答えはない」
「……どうするの?」
ようやくキリコはあたりの話しを真剣に聞く気になったのか、じっとあたしを見つめ返した。
「あたしは――音無花音は先輩の言いなりにはならない。もちろん、キリコのことも先輩には渡さない。あたしらみんなで先輩に対抗する」
「みんなで?」
今までさんざんキリコにひどいことをしておきながら、謝りもせずに上から目線で従わせようとしているあたしは、やっぱりひどい人間だ。
けど、これがあたしなんだ。
これが、あたしが考えた解決方法。
「そうだよキリコ。キリコはあたしたちの仲間になればいい」
「仲間……」
「そう、仲間。一緒に先輩と戦おう。だから、こっちにおいで、あたしのほうに――」
あたしはキリコの――音無花音の手を取って引き寄せた。
もう片方の手を背中に回して抱きしめる。
あらがうことはなかった。
キリコも、返事をする代わりに、あたしの――霧島桐子の背中に手を回した。
「だったら、あたしとは、なんで? なんであたしと入れ替わろうなんて思ったの」
「神様のいうとおり」
「え? それがおまじないの方法?」
「ど、れ、に、――」
キリコはでたらめに空中で指さしをした。
「――し、よ、う、か、な、って」
最後にあたしを指した。
「は?」
あたしは思いっきり間抜け面になっていたのだろう。キリコはクスリと笑った。
「冗談」
「もう、キリコも陽向くんもくだらない冗談ばっか言わないでよ」
「陽向の冗談は本当につまらないでしょ?」
生意気どころじゃない。ちょいちょい「わたし、陽向のこと知ってます感」だしてきて、イラついた。これだったら反感買うのもわかる。
だが、今はそれどころじゃない。
「どっちもつまらないっていうの。それで、なんなの」
「もしも本当に入れ替われたらって、いろんな想像をしたのね。それで本当に入れ替わったときのことを考えて、まず財布とかタブレットとか必要なものを持ち出して、駅のロッカーに預けておいたりとか」
「はぁ?」
なんたる周到!
こっちは原始人並に苦労したというのに。涼しい顔してそんなこというか。
「入れ替わったときの想像をしたら本当に楽しかった。この人だったらあんなふうかなとか。でも、誰だってかまわないって思いながら、やっぱり最後は音無さんの手をつかんでた。こうなりたいって思ってたんだろうね。すらっとしてて、かわいくて、毅然としてて」
この期に及んで持ち上げてくる浅ましさにあきれる。
あたしはなんの努力もしてないと思われているのか。背筋を伸ばして陽キャに振る舞い、『かわいい』を吸収して自分を磨き、友達ともうまくやりとりしてハブられないように頑張ってきたのに。
自分だけ初めから損していると思っているのか。そんなわけはない。いじめる理由なんてなんとでもなるのだ。
人と人が関わり合うなら、いつだっていざこざが起こる可能性をはらんでいる。
渡り合う努力だって必要なんだ。
キリコがいじられ対象となって、どうにもこうにもならなくなって、声を上げられなかったのは不幸なことだ。
キリコはなんにも間違ったことはしていない。
なんなら悪いのはこちら側だ。
だけど、あたしとキリコが入れ替わってキリコを体験してみたところで、罪滅ぼしをしようだなんてあたしは思わない。
あたしはキリコの代わりに気持ちを奮い立たせて、キリコが今置かれている状況から抜け出すめどをつけてあげようとか、そんな気力はない。
なんでキリコのためにそんなことをしてあげないといけないんだって、反発している。
ごめんね、キリコ。それがあたしの本音なんだ。
でもね――
「キリコ、それは勘違いしてる」
あたしはきっぱりといった。
「あなたがあたしになって、この先安泰だなんて思わないほうがいい。ちょっとしたことで潮目が変わるし、自分でこんなこというのもあれだけど、あたしが入れ替わったことを双葉も友梨奈も気づいてないなら、あたしら、お互いを利用していた薄っぺらい関係でしかなかったんだよ。そんなんでも、あたしはいいと思ってるけどね」
最後はちょっぴり強がったが、ふたりと縁を切りたいと思っていないのは本当だ。
あたしだって余裕があるわけじゃない。
あたしが音無花音に戻ってもキリコのことを救う勇気はない。
だけど、一緒になら戦える。
「キリコ、あんた逃げたでしょ。先輩にからまれて、どうしたらいいかわからなくて、自分では決めず、選択をあたしに託した。誰かがそう決めたのなら受け入れざるを得ない。今までがそうであったように。でもね、キリコが考えたその選択肢の中に、あたしの答えはない」
「……どうするの?」
ようやくキリコはあたりの話しを真剣に聞く気になったのか、じっとあたしを見つめ返した。
「あたしは――音無花音は先輩の言いなりにはならない。もちろん、キリコのことも先輩には渡さない。あたしらみんなで先輩に対抗する」
「みんなで?」
今までさんざんキリコにひどいことをしておきながら、謝りもせずに上から目線で従わせようとしているあたしは、やっぱりひどい人間だ。
けど、これがあたしなんだ。
これが、あたしが考えた解決方法。
「そうだよキリコ。キリコはあたしたちの仲間になればいい」
「仲間……」
「そう、仲間。一緒に先輩と戦おう。だから、こっちにおいで、あたしのほうに――」
あたしはキリコの――音無花音の手を取って引き寄せた。
もう片方の手を背中に回して抱きしめる。
あらがうことはなかった。
キリコも、返事をする代わりに、あたしの――霧島桐子の背中に手を回した。



