安宿媛は、自身の自宅で目を覚ました。昨日まであった苦しさはすっかり消え、体も癒えきったかのようで、幾分か楽で軽い。
部屋の中もいつも以上に暖められており、火鉢の火も、いつになく頻繁に交えられているようだった。
その後、使用人に声をかけると、その知らせは三千代にも伝わったらしく、ほどなくして彼女も安宿媛の部屋へと姿を現した。
「もう、本当にどうなるかと思ったわ」
「お母さま、本当にご心配をおかけしました」
安宿媛は、今にも泣き出しそうな母の様子を見て、どれほど自分が心配をかけていたのかを思い知る。
「呪詛だなんて……そんなものが本当にあるなんて。もう、下手にあなたを嫁がせるべきではないのかもしれないわね」
三千代はそう言って、彼女に抱きついてきた。いつもはどちらかといえば自分に厳しめな母が、ここまで動揺する姿を見るのは、とても珍しいことのように思えた。
「とりあえず、私はもう大丈夫です。お父さまにも、早くそのことをお伝えしないと」
「そうね。お父さまには私から伝えておくから、あなたはもう少し休んでいなさい。それから、何か食べるものを持って来させましょう」
彼女は安宿媛の頭を撫でながら、それだけ言うと、そのまま立ち上がり、部屋の入り口の戸を開いた。そして、少し寒そうに身をすくめながら、そっとその場を離れていってしまった。
安宿媛は母が部屋を出ていくと、思わず肩をなだ下ろした。
「今回は本当に、死ぬかと思ったわ……。お母さまも言っていたけれど、呪詛だなんてものが本当にあるのね」
その後、また同じことが起こらないよう、当分の間、彼女の家を訪れる者たちには、これまでになく厳重な注意が払われるようになった。
そしてこの件を機に、首皇子からは音沙汰もなくなり、彼女のもとへ通うこともなくなってしまった。
最初は、自分のことを気遣って通うのを控えているのだろうと思った。だが、一カ月、二カ月と時が過ぎても、首皇子は一向に彼女の前に姿を見せようとはしない。
さすがにおかしいと感じた安宿媛は、それでも、このまま何も言わずに待つ気にはなれなかった。そこで、父にそのことを尋ねてみることにした。
「あぁ、前回お前が倒れたことが、彼には相当な衝撃だったようでな。最近はどうも、東宮からあまり外へ出ていないようだ」
「え……それが理由で?」
「彼なりに責任を感じているのだろう。やはり、お前と接するのはよくなかった。そう周りの者にも話しているそうだ」
安宿媛はそれを聞いて、呆気に取られた。確かに、彼が責任を感じたというのは理解できる。だが、そんなことが、これから先も二度と起こらないとは限らない。
そもそも、いずれ天皇になる身の彼である。それを気にしていては、妃の一人も娶れないではないか。
「お父さま、彼が責任を感じているのは理解できます。でも、それでは私はまったく納得がいきません!」
「まあ、お前の言いたい気持ちは分かる。しばらくは様子を見るほかないのかもしれない」
「いいえ、お父さま。こういうことは、いつまで待っていても、当の本人が変わらないことには、何の解決にもなりません」
部屋の中もいつも以上に暖められており、火鉢の火も、いつになく頻繁に交えられているようだった。
その後、使用人に声をかけると、その知らせは三千代にも伝わったらしく、ほどなくして彼女も安宿媛の部屋へと姿を現した。
「もう、本当にどうなるかと思ったわ」
「お母さま、本当にご心配をおかけしました」
安宿媛は、今にも泣き出しそうな母の様子を見て、どれほど自分が心配をかけていたのかを思い知る。
「呪詛だなんて……そんなものが本当にあるなんて。もう、下手にあなたを嫁がせるべきではないのかもしれないわね」
三千代はそう言って、彼女に抱きついてきた。いつもはどちらかといえば自分に厳しめな母が、ここまで動揺する姿を見るのは、とても珍しいことのように思えた。
「とりあえず、私はもう大丈夫です。お父さまにも、早くそのことをお伝えしないと」
「そうね。お父さまには私から伝えておくから、あなたはもう少し休んでいなさい。それから、何か食べるものを持って来させましょう」
彼女は安宿媛の頭を撫でながら、それだけ言うと、そのまま立ち上がり、部屋の入り口の戸を開いた。そして、少し寒そうに身をすくめながら、そっとその場を離れていってしまった。
安宿媛は母が部屋を出ていくと、思わず肩をなだ下ろした。
「今回は本当に、死ぬかと思ったわ……。お母さまも言っていたけれど、呪詛だなんてものが本当にあるのね」
その後、また同じことが起こらないよう、当分の間、彼女の家を訪れる者たちには、これまでになく厳重な注意が払われるようになった。
そしてこの件を機に、首皇子からは音沙汰もなくなり、彼女のもとへ通うこともなくなってしまった。
最初は、自分のことを気遣って通うのを控えているのだろうと思った。だが、一カ月、二カ月と時が過ぎても、首皇子は一向に彼女の前に姿を見せようとはしない。
さすがにおかしいと感じた安宿媛は、それでも、このまま何も言わずに待つ気にはなれなかった。そこで、父にそのことを尋ねてみることにした。
「あぁ、前回お前が倒れたことが、彼には相当な衝撃だったようでな。最近はどうも、東宮からあまり外へ出ていないようだ」
「え……それが理由で?」
「彼なりに責任を感じているのだろう。やはり、お前と接するのはよくなかった。そう周りの者にも話しているそうだ」
安宿媛はそれを聞いて、呆気に取られた。確かに、彼が責任を感じたというのは理解できる。だが、そんなことが、これから先も二度と起こらないとは限らない。
そもそも、いずれ天皇になる身の彼である。それを気にしていては、妃の一人も娶れないではないか。
「お父さま、彼が責任を感じているのは理解できます。でも、それでは私はまったく納得がいきません!」
「まあ、お前の言いたい気持ちは分かる。しばらくは様子を見るほかないのかもしれない」
「いいえ、お父さま。こういうことは、いつまで待っていても、当の本人が変わらないことには、何の解決にもなりません」



