「おはようー」
「あら。ななみ、おはよう」
「おはよう、ななみ」
朝。支度を済ませてリビングに行けば、朝ごはんのいい匂いに迎えられる。
新聞を読んでいたタブレットをオフにしたお父さんが、私のリュックに目を留めた。
「おっ、てるてる坊主リニューアルしたのか」
「えっへへー、わかる?」
「へええ、いいじゃない。前のも可愛かったけど、今度のは丈夫そう」
お父さんとお母さんに揃って覗き込まれて、少し恥ずかしくもあるけど自慢したい気持ちの方が勝った。
「どうかな」
前と同じようなビニールポーチ。
だけど中身のてるてる坊主はひと味違う。
オレンジ色の水玉模様が人目を引く、元気をもらえる柄は晴人のてるてる坊主。
ネイビーブルーのストライプがシャープな印象を際立たせるのは、時雨さんのてるてる坊主。
グレーの雲形がゆったり弧を描いて、八雲くんの優しさを表しているてるてる坊主。
そしてレモンイエローのラインが一閃する、勢いに溢れたてるてる坊主は鳴神のもの。
手芸屋さんに行って、彼ら4人に選んでもらった柄の布で作った渾身の力作だ。
布は丈夫な防水加工をして、ちょっとやそっとのことでは破れないようにしている。
もちろん、ティッシュで作った元祖も捨ててはいない。ひと回り大きいのはその中に元祖を包んでいるからだ。
「ななみ、嬉しそうね」
「大切にしなさい」
「うん!」
通学路の途中でポーチを開く。
色とりどりの光が手のひらの中で小さく輝いて、彼らのおでましだ。
「みんな、おはよう!」
「はよー、ななみ」
晴人のシャツから覗くのは、オレンジ色のドット柄。
「良い朝ですね。ななみさん」
時雨さんの髪を結ぶシュシュは、ネイビーブルーのストライプ。
「えへへ、ななみさんにまた会えました……」
八雲くんのネクタイにはグレーの雲がぷかぷか浮かんでいる。
「朝から元気だな、ななみは」
そして、レモンイエローのラインが尾を引くバングルが、鳴神の手首を彩っていた。
「ななみー、今日の天気はどうしたい?」
「普通でいいよ。そのまんま」
「ふむ……ななみさんは欲が無いですね」
「そ、そうですか? 朝はあと5分寝ていたいってずっと言ってますよね」
「それは! 言わないお約束!!」
けらけら笑う彼らに囲まれて、通学路を少しだけ早足で進む。
すると、一番後ろにいた鳴神にリュックをぐいと引っ張られた。
「っ、何よ、鳴神」
振り向くと、鳴神が虹色の石が光るピアスを目の前に提げていた。
「コレ。ちゃんと着けとけ」
「……うん」
このピアスは彼らからのプレゼント。
離れていても、すぐに駆けつけられるようにとお守り代わりに渡されたのだ。
受け取って素早く耳につける。
ノンホールピアスなのは、痛い思いをさせたくないという彼らの優しさだ。
「ねえねえ、やっぱり天気のリクエストしていいかな」
「お、いいぜ。確か今日は音楽のテストだったな。カミナリじゃんじゃか鳴らして、お前のヘッタクソなリコーダーを誤魔化してやるよ」
「ちっがぁう!」
鳴神にデコピンすれば「ぐあっ」と呻いてようやく減らず口が収まった。一言多いにも程がある。
「ななみさん、それではどんなお天気に?」
「…………虹がかかる、とびっきりのお天気!」
時雨さんがおやおやと微笑む。
晴人が任せとけ! と拳を突き出す。
八雲くんがぴょこんと頷く。
鳴神がそっと私の手を取った。
「それならお前がいないとな。空の彼方まで掛かる7色は、御空ななみの宝物――だろ?」
鳴神の手を握り返して歩き出す。
今日も空は、輝いていた。
「あら。ななみ、おはよう」
「おはよう、ななみ」
朝。支度を済ませてリビングに行けば、朝ごはんのいい匂いに迎えられる。
新聞を読んでいたタブレットをオフにしたお父さんが、私のリュックに目を留めた。
「おっ、てるてる坊主リニューアルしたのか」
「えっへへー、わかる?」
「へええ、いいじゃない。前のも可愛かったけど、今度のは丈夫そう」
お父さんとお母さんに揃って覗き込まれて、少し恥ずかしくもあるけど自慢したい気持ちの方が勝った。
「どうかな」
前と同じようなビニールポーチ。
だけど中身のてるてる坊主はひと味違う。
オレンジ色の水玉模様が人目を引く、元気をもらえる柄は晴人のてるてる坊主。
ネイビーブルーのストライプがシャープな印象を際立たせるのは、時雨さんのてるてる坊主。
グレーの雲形がゆったり弧を描いて、八雲くんの優しさを表しているてるてる坊主。
そしてレモンイエローのラインが一閃する、勢いに溢れたてるてる坊主は鳴神のもの。
手芸屋さんに行って、彼ら4人に選んでもらった柄の布で作った渾身の力作だ。
布は丈夫な防水加工をして、ちょっとやそっとのことでは破れないようにしている。
もちろん、ティッシュで作った元祖も捨ててはいない。ひと回り大きいのはその中に元祖を包んでいるからだ。
「ななみ、嬉しそうね」
「大切にしなさい」
「うん!」
通学路の途中でポーチを開く。
色とりどりの光が手のひらの中で小さく輝いて、彼らのおでましだ。
「みんな、おはよう!」
「はよー、ななみ」
晴人のシャツから覗くのは、オレンジ色のドット柄。
「良い朝ですね。ななみさん」
時雨さんの髪を結ぶシュシュは、ネイビーブルーのストライプ。
「えへへ、ななみさんにまた会えました……」
八雲くんのネクタイにはグレーの雲がぷかぷか浮かんでいる。
「朝から元気だな、ななみは」
そして、レモンイエローのラインが尾を引くバングルが、鳴神の手首を彩っていた。
「ななみー、今日の天気はどうしたい?」
「普通でいいよ。そのまんま」
「ふむ……ななみさんは欲が無いですね」
「そ、そうですか? 朝はあと5分寝ていたいってずっと言ってますよね」
「それは! 言わないお約束!!」
けらけら笑う彼らに囲まれて、通学路を少しだけ早足で進む。
すると、一番後ろにいた鳴神にリュックをぐいと引っ張られた。
「っ、何よ、鳴神」
振り向くと、鳴神が虹色の石が光るピアスを目の前に提げていた。
「コレ。ちゃんと着けとけ」
「……うん」
このピアスは彼らからのプレゼント。
離れていても、すぐに駆けつけられるようにとお守り代わりに渡されたのだ。
受け取って素早く耳につける。
ノンホールピアスなのは、痛い思いをさせたくないという彼らの優しさだ。
「ねえねえ、やっぱり天気のリクエストしていいかな」
「お、いいぜ。確か今日は音楽のテストだったな。カミナリじゃんじゃか鳴らして、お前のヘッタクソなリコーダーを誤魔化してやるよ」
「ちっがぁう!」
鳴神にデコピンすれば「ぐあっ」と呻いてようやく減らず口が収まった。一言多いにも程がある。
「ななみさん、それではどんなお天気に?」
「…………虹がかかる、とびっきりのお天気!」
時雨さんがおやおやと微笑む。
晴人が任せとけ! と拳を突き出す。
八雲くんがぴょこんと頷く。
鳴神がそっと私の手を取った。
「それならお前がいないとな。空の彼方まで掛かる7色は、御空ななみの宝物――だろ?」
鳴神の手を握り返して歩き出す。
今日も空は、輝いていた。


