てるてる坊主を作っただけなのに、お天気男子の溺愛が止まらないのですが!

 手にしていた枝を放り投げてそれを追う。
 
 雨に濡れた砂利がすべる。
 ぬかるんだ土に足を取られる。
 
 構うもんか。

 あれは鳴神。
 
 私の大切な、お天気の神様。
 
 私を助けてくれた――かけがえのない神様だ。
 
「鳴神っ!」
 
 風の彼方に消えていきそうなてるてる坊主に手を伸ばす。
 
 あと少し。
 
 届いて。お願い。
 
「――っ!」
 
 何かにつまづいた。
 膝ががくんと曲がる。
 視界が一気に下がったけど、倒れ込む直前に砂利に指先をついて立て直した。
 
「いた……っ」
 
 何かで切ったのか指先が熱い。
 でも今はどうだっていい。
 
 鳴神さえ戻れば、それで。
 
 
「お願い、鳴神!」
 
 
 風が、やんだ。

 
 その途端、てるてる坊主も呼び止められたように動きを止める。
 
 そしてUターンするように、私が伸ばしていた手のひらの上に落ちてきた。
 力が抜けてその場にへたりこむ。
 
 レモンイエローで描いた顔は、小さな葉や枝にまみれてぼろぼろになっても自信満々に笑っていた。
 
「鳴神……」
 
 半日も経っていないのに、もう何年も離れ離れになっていた気がする。
 それでも鳴神が笑っているから、私も自然と笑みがこぼれた。
 
「鳴神、ずるいよ。最後までハラハラさせてさ」
 
 返事はない。
 でも言葉が止まらない。
 
「落っことしてごめんね。助けようとしてくれてありがとう。おかげで窓から落ちなかったよ」
 
 雨が降り続いている。
 
 どこかでカミナリも鳴っている。
 
 帰らなきゃ。
 お父さんもお母さんも心配してる。
 そう思うのに、足が動かない。
 
「トイレに助けに来てくれた時、嬉しかったよ。ヒーローみたいだった。あんなに怒った鳴神、初めて見た」
 
 鳴神のてるてる坊主の頭の部分がじわりと赤くなっていた。
 
 え、と驚いて見てみれば、私の指から滲む血だった。
 
 さっき転びかけた時、熱くなったのは指を切ったからだったんだ。
 
 振り向いてその辺りをみれば、割れた鏡が雨粒にうたれてきらきら光っていた。
 
 怪我しないように触らないでいたのに、よりによってそこを走ったからだ。
 つくづく運がないな、私。
 
「……血か」
 
 
 そうだ。

 
 鳴神を初めて呼び出した時のことを思い出す。
 
 血と、強い願い。
 それが私たちの始まりだった。
 
「鳴神、戻ってきて。今度は私がちゃんと守るから」
 
 まだ血が止まらない指先を唇で強く吸う。
 
 
 てるてる坊主の汚れを軽く払って――レモンイエローの唇に、キスをした。
 
 
 雨も、カミナリも、しんと呼吸を止めて静まり返る。
 
 熱い指先と、かさついた唇が、私の世界のすべてだった。