てるてる坊主を作っただけなのに、お天気男子の溺愛が止まらないのですが!

「バカ!」
 
 襟首を掴まれて、ものすごい勢いで引き倒される。
 
 鳴神の声だった。
 
 床に打ちつけた肩が痛い。
 
 鳴神ったら力任せに引っ張るからこんな……

 
 急いで起き上がる。鳴神はどこ?
 
 振り向くと鳴神が、そこに――


 違う。
 
 
 私が見たのは、レモンイエローの残像だった。
 
 
「ななみ、大丈夫!?」
 
「千結ちゃん」
 
 駆けつけてくれた千結ちゃんにほっとする。突き飛ばされてたけど怪我は無いみたいだ。
 
「千結ちゃ、巻き込んでごめ――」
 
「ねえ、時雨さんたちが消えちゃった!」
 
 泣きそうな千結ちゃんの声に、喉を一突きされたような衝撃が走る。
 
「私に、怪我をしてるといけないから保健室に行けって、ここは自分たちがどうにかするって言ってたのに、振り向いたら、3人ともいなくてっ」
 
 
 ねえ、鳴神くんは、鳴神くんもいないの!?
 
 千結ちゃんがそう聞いているのに、答えられない。
 
「なる、かみ」
 
 胸の奥で何かが騒いでいる。

 心臓が身体中で暴れ回っている。
 
 その振動に突き動かされるようにがたがたと手が震えている。
 
 鳴神たちがいない理由。私は答えを知ってる。たどり着きたくないだけだ。
 
 うまく力の入らない足でなんとか立ち上がって窓にすがりついた。
 
 千結ちゃんが寄り添ってくれてるのを背中に感じる。
 
 窓の外を見下ろす。
 
 ここは三階だ。
 
 校舎を囲むように植えられた木々の緑ばかりが目につく。
 
 その中に、きらりと光るものがあった。

 
 ポーチだ。
 
 ポーチのビニール部分が光を反射している。
 
 そして――
 
「あ……」
 
 枝に貫かれたてるてる坊主が見えた。
 
 落ちていく時に葉や枝に傷つけられたのか、裾の部分がボロボロだ。
 
 
「失くすなよ? 既製品ならまだしも、手作りは替えがきかないからな」

 
 そう言っていたのはお父さんだったっけ。

 そうだ。どんなにすごい能力を持っていても、どんなに私に優しくしてくれても、彼らは私が作ったてるてる坊主。
 
 だから失くさないようにポーチに入れて、大切にしていたのに。
 
 きっと、私を窓から引きはがした直後、レモンイエローのてるてる坊主は枝に貫かれたのだ。
 
 そして、ほぼ同時に千結ちゃんの前から3人が消えたのもそういうことだろう。
 
 
「……ばか、ばか、ばかばかばかあっっっ!!」
 
 
 もっとしっかりポーチを持っていれば。
 
 もっと早く取り返せば。
 
 あともう一瞬だけ、早く手を伸ばしていれば。
 
 とめどない後悔がお腹の底を揺らすままに叫んだ。

 
 馬鹿は、私だ。