てるてる坊主を作っただけなのに、お天気男子の溺愛が止まらないのですが!

「……バカにすんなッ!」
 
 つんざくような金切り声と共に後頭部に鋭い痛み。
 
 髪を引っ張られて引き戻される。
 
「った! ちょっと、やめて!」
 
「なんでアンタみたいなのが鳴神くん達にちやほやされてるの!?」
 
「知らない! なんでもいいから離してよ!」
 
 髪をむしり取る勢いで鷲掴みにしてくる子から逃げようと、ぐるぐる回っているうちに目まで回ってきた。
 
 バタン、と大きな音がする。

 もしかしてトイレの入口が閉められた!?
 
 はっと顔を上げるとその瞬間、フラッシュをまともにくらって目がチカチカした。
 
 
 写真撮ってるの!? サイテー!
 
 
「なんにも取り柄がないくせに、ハイスペ転校生4人も侍らせて何様のつもり? 彼らの弱みでも握ってるの?」
 
 
 侍らせる? 弱み?
 
 なんていう思考回路してるの。

 
 鳴神たちはマラソン大会を中止にしたいっていう私のわがままを聞いてくれた、優しいお天気の神様。
 
 見返りなんて求められたこともない。
 
 てるてる坊主なのに学校生活をエンジョイしてるちゃっかりものなところはあるけれど、この間だって虹を見せてくれて、私をひとりぼっちにしないって約束してくれた。

 私の、大切な――
 
「鳴神たちを、バカにしないで!」
 
「アンタ馴れ馴れしいのよ!」
 
 ぱん、と乾いた音がした。
 
 頬が熱い。後からやってきた痛みに、叩かれたのだとようやく把握する。
 
「いっ……つぅ…………」
 
 口の中が苦い。叩かれた衝撃で口の中を切ったみたいだ。唇の端を手の甲で拭えば、真新しい赤色が絵の具よりも鮮明に線を引いた。

 
 ……ヤバいかもしれない。

 
 ふっと腕の力が緩んだ。ポーチが床に落ちる。
 
 しまった。ポーチにはてるてる坊主が――
 
「なあにコレ。てるてる坊主?」
 
 待ち構えていた別の女子がポーチを拾い上げる。
 
「返して! ひとのものを勝手に開けるなんてどうかしてる!」
 
 取り返そうと咄嗟に手を伸ばすも、また別の女子がそれを阻む。

 髪を引っ張られて身動きが取れない。
 
 ジーッと音を立ててチャックが開けられる。
 
 
 うそ、うそうそ。やめて!
 
 てるてる坊主に触らないで!
 
 
「ななみ!!」
 
 
 バン、とドアを開け放った音に全員の動きが止まる。
 
 そこに居たのは――
 
 
「千結ちゃん……!」
 
 
 肩で息をした千結ちゃんがそこに立っていた。