てるてる坊主を作っただけなのに、お天気男子の溺愛が止まらないのですが!

 時雨さんの指先がくるりと小さな縁を描く。
 
 それに連動するように、私たちの真上にドーナツ状の白い雲が姿を見せた。
 
 鳴神が呼ぶような黒い雲ではない。

 
 もっと儚げで、繊細な……そう、綿菓子みたいな雲だ。
 
 
「時雨さん、これはどういう――」
 
 答えは、空から降ってきた。
 
「わあっ、雨!?」
 
「天気予報では言ってなかったのにー!」
 
「校舎入ろっ」
 

 さああと降りだした弱い雨。
 
 細い糸のような小雨に驚いた面々がバタバタと立ち上がっては、雨宿りに校舎へ駆け込んでいく。
 
「雨? え、でも、私、濡れてな――」
 
「上をご覧ください」
 
 
 空を見上げると、明快な答えがそこにあった。
 
 そうだ。雲はドーナツ状だったのだ。
 
 雲の真下は雨模様。

 私たちがいるのはドーナツの穴部分。
 
 ほんの数メートルしか離れていないのに、くっきりと天気は分かたれている。
 
 
「これならななみさんの耳を煩わせることもありませんね」
 
 雨のヴェールに守られているようだ。
 
 時雨さんの優しさにジンと胸が熱くなる。

「言っただろ? 塗り替えればいいって」

 晴人はコロッケパンの最後の一口を飲み込むと、ご馳走様とでも言うようにパンと手を合わせた。

 
 あ、これは晴人の合図だ。

 
「わあ……」

 すると白い雲に遮られていた太陽がひょこりと顔を出した。

 まるで「元気か?」なーんて声をかけてくれてるみたい。
 
「驚くのはまだ早いぞ」
 
「え?」

 晴人の企み顔が太陽にきらめく雨粒をまとって輝いている。

 
 まだ何かあるっていうの?

 
「……へえ、確かに昼休みにぴったりのショーだな」

 鳴神がヒュウと口笛を吹いた。

 
 空に、虹がかかっていた。