てるてる坊主を作っただけなのに、お天気男子の溺愛が止まらないのですが!

「よッし、10個目できた!」
 
 黒の油性ペンを机に置いて次に取りかかる。
 このペースの速さを足に反映出来たらどれだけいいだろうか。

 そんな泣き言を言っていられる時間も惜しいので、すぐ次に取りかかる。

 100均で買ってきた球の形をした発泡スチロールにティッシュを被せて、余ったひらひらを輪ゴムできゅっと束ねる。
 球の部分にペンで簡単に顔を描けばできあがりだ。
 
 ……そう。この工程でお察しの通り、私は今、明日のマラソン大会がどうにかして中止にならないかと一縷の望みを賭けて、てるてる坊主を作っています。
 
 普通、てるてる坊主は晴れて欲しい時に作るものだっていうのはわかってる。

 でも、逆さに吊るすと雨が降るとも聞いた事がある。
 
 それならもう、神様でもおまじないでもいいから頼るしかない。

 てるてる坊主を雨雨坊主に変えて、マラソン大会の開催を阻止するのだ。

 手芸が好きで家に材料がたくさんあったのをこれ幸いに、家から帰るなり私は部屋にこもっておやつも食べずに、せっせとてるてる坊主量産マシーンになった。
 
 最初は顔なんて描かなくていいかーとも思ってのっぺらぼうばかり作っていたけれど、そのうち考え直した。

 顔があった方が効果が出るかもしれない。神社の狛犬と一緒だ。
 
 あれは悪いものが入ってこないように、怖い顔で追い払っているのだという。

 その理屈が昔から通っているなら、てるてる坊主にだって同じことが言えるはずだ。

 球体に顔を描くのは難しくて、描かないほうが良かったんじゃないか……みたいなクオリティのてるてる坊主ばかりだったけど、やはり練習しているとコツが掴めてくる。
 
「んー、普通の顔じゃつまらないかな。もっと可愛かったりイケメンの方がいい? 鬼の顔じゃ節分だよねえ」
 
 そうすると変なこだわりが生まれてくるのが私のクセだ。

 スマホで「デフォルメキャラクターの描き方」なんて検索しながら、ああでもないこうでもないと始めてしまった。
 
 ……後から思えば、このこだわりが、すべての始まりだったのだ。