てるてる坊主を作っただけなのに、お天気男子の溺愛が止まらないのですが!

「ななみー、顔が疲れてる」
 
 4時限目が終わってさあ昼休み。

 いつもなら、さあお昼ごはんだと元気よくお弁当を取り出せるのだけれど、どうにも力が湧いてこない。
 
 
 ……別にお腹が空きすぎて元気がでないワケではない。念のため。
 
 そんな私をつん、とつついたのは千結ちゃんだ。
 
 紙パックのオレンジジュースを目の前で揺らされ、ぼうっとそれを目で追うと「こりゃ深刻だ」と大袈裟に驚かれた。
 
「逆ハー生活で愛されすぎて大変って? 一生分のモテ期真っ最中はツライねえ」
 
「いやいや、別に逆ハー生活じゃないし」
 
「あんなに熱烈なのに?」
 
 上から莉亜ちゃんの声が降ってくる。購買でパンを買ってきたみたい。
 
「ななみちゃん、天野4兄弟のお姫様って有名だよ」
 
「はああ!?」
 
 とんでもないことを言ってのけた莉亜ちゃんだけど、本人に自覚は無いらしい。

 平気な顔してツナサンドの封を開けてぱくついている。
 
「何をどうしたら私がお姫様になるの。噂になるのはあの4人だけじゃないの?」
 
「だぁから!」
 
 千結ちゃんはぴんと人差し指を立ててちっちっちと左右に振る。
 
「眉目秀麗、容姿端麗、文武両道、天下無敵の天野4兄弟――先生の花丸も男子の憧れも女子のトキメキもぜーんぶ我関せずの彼らが唯一執着してるのがアンタ……御空ななみだからに決まってるじゃない!」
 
「そうそう。男子からは野球部に入れバスケ部はどうだ陸上にきてくれって引っ張りだこだし、3歩歩けば女子の悲鳴が凄まじいし、しょっちゅうカメラ回されてるし……校内SNSなんてほとんど彼らの記事ばっかり」
 
 莉亜ちゃんがスマホを向けてくる。
 
 そこには確かにタイムラインを埋め尽くすあの4人の写真や動画が溢れていた。
 
 ていうかこれ授業中のもあるじゃん。体育のなんて校内から撮っている角度もある。

 
 みんな勉強しなよ……
 
「どんなアプローチにもなびかない天野くんたちなのに……これでしょ?」
 
 莉亜ちゃんがくるりと私の席から周りを見渡す。
 
 そこには何かの結界か? とでも言いたくなるように私の四方に配置された4人の机と重石のように置かれた荷物。
 
 4人が一気に私の傍から離れる時、必ずこうして周りを固められるのだ。もうちょっとした檻だ。
 
 おちおちトイレにも行けない。……それは行くけど。
 
 
 そう。お昼は購買派な彼らは昼休みになると我先に駆け出していく。
 
 私はお母さんのお弁当があるけれど、お母さんに男子4人分のお弁当を作って、なんて言えないし。

 それ以前にてるてる坊主(中身は男の子)が実はこっそり我が家に住んでます、なんて言えない。
 
 私の勝手で人間の姿になってもらったのに申し訳ないなと思うけれど、男子たるもの自給自足してほしいところではある。
 
 そうそう、てるてる坊主の時はお腹空かないらしい。
 
 だから彼らは一日一食でいいそうだ。お手軽でありがたい。
 
 んー、と伸びをして窓の外を見る。晴れて太陽の光がさんさんと射し込んでいた。