てるてる坊主を作っただけなのに、お天気男子の溺愛が止まらないのですが!

 後ろの八雲くんを振り向きながらそれでもなんとか歩いていると、急にダダダダダッッと足音が近づいてきた。

 
 な、なに!?

 
 ばっと前に向き直ると――無表情の鳴神が立っていた。

「鳴神? 先に行ったんじゃ」
 
「遅い」

 晴人くんと喋っている間にすたすたと姿が見えなくなるくらいの距離まで行ってしまった鳴神が、どうしてわざわざ戻ってきたの?

「遅いって……そりゃあ鳴神の足の速さには追いつけないよ」
 
「当たり前だ。俺より速いやつはいない」

 
 なんなんだ。
 
 もしかして足が速い自慢?
 
 雷のカミサマにただの人間が……ましてマラソン大会中止をお祈りするレベルの私が太刀打ちできっこないのなんて、わかってるはずなのに。
 
 うーん、それとも……
 
 少ない人生経験の中から、鳴神を理解するための糸口を引っ張り出す。
 
 だけど……悲しいかな、カミサマを理解しようとするなんて平々凡々な私には難しいらしくて、何も浮かばない。

「ねえ、鳴神。言ってくれないとわからないよ。先に行ったのに、どうしてわざわざ……」
 
「――っ、この、鈍感!」

 ど、鈍感〜!?

 確かに運動神経はお母さんのお腹の中に置いてきた気はするけれど! 面と向かって言うなんてどういうこと!?
 
 影でこそこそ言われても腹が立つけど、真正面から言われたってムカつくものはムカつくんだー!!
 
 うっ、待てよ。
 
 てるてる坊主から目覚めさせた責任は私にある。
 
 この調子で学校生活で問題ばかり起こしたら保護者呼び出しだ。
 
 だけど鳴神たちには保護者がいない。
 
 だから先手を打って、私がちゃんと鳴神を更生させてあげないと!

 
「こらっ、鳴神! そういうこと言っちゃ……うわっ」

 何も言い出さないうちから、鳴神にぐいっと手首を引かれて言葉が途切れた。
 
「あっ」

 勢いですぽんと八雲くんの腕から抜けだす。
 
 抵抗がなくなったことで運搬しやすくなったとでも言うのか、鳴神は更に力を入れて私を引き寄せた。
 
 八雲くんの腕から解放されたのは嬉しいけど、これじゃ相手が鳴神に変わっただけだ。
 
 鳴神は私の手首をつかんだままずんずん歩き出す。足の長さが違うからほとんど引きずられているようなものだ。

「ね、ねえ鳴神! 速い、速いよ! 速いのはわかったから……」
 
 歩きながらもちらちらと後ろを振り向くと、八雲くんたちを置き去りにしてしまっている。
 
 もちろん彼らも追いかけては来ているけれど、鳴神がパチパチと放電しているせいで近寄りたくないみたいだ。
 
 私たちは一定の距離を保ったまま、バラバラになってしまっている。
 
 
 どっちを向きながら歩けばいいのかわからない。
 
 前の鳴神を止めないと。
 
 後ろの八雲くんたちを気にかけないと。
 
 そんなことばかり考えていたら足がもつれて鳴神の背中に思いっきり鼻をぶつけた。