てるてる坊主を作っただけなのに、お天気男子の溺愛が止まらないのですが!

「ストップ! ……です」
 
 にゅっと後ろから出てきた腕が晴人のおでこをぐいっと押しのけた。マジックみたいでさっきとは違う意味でドキドキする。
 
「ってえ……八雲、お前なあ! 良いところだったのに!」
 
「だ、だから止めたんです……朝っぱらからななみさんに迫るような不埒者なんですから」
 
「不埒者って……」
 
 腕の正体は八雲くんだった。
 
 晴人より背は低いながらも、こうして近くにいるとやっぱり少し見上げるくらいには私より背が高い。
 
「ななみさん、変なことされてませんか?」
 
「あ、ありがとう八雲くん。大丈夫だよ」
 
 
 高鳴る胸を撫で下ろしながら八雲くんに笑いかけると、八雲くんは何かを堪えるみたいにきゅっと唇を引き結ぶ。
 
 そして私のうなじに顔を埋めるように抱きついてきた。
 
「え……っ、や、八雲くん!?」
 
「……ななみさん」
 
 ぽつりと呟かれた私の名前にぴくりと肩が震える。
 
「な、なあに……?」
 
「もし、ななみさんに何かあれば……いえ、ないのが一番なんですけど……とにかくななみさんを奪われてしまうくらいなら、僕……隠しちゃいますから、ね?」
 

 え、えええ!? 隠すってなに!?

 八雲くんっておとなしい顔してそういうこと言うキャラだったの?
 
 晴人に劣らず八雲くんもギャップ萌えを狙ってくるなんて……ずるいっ!!

 
 ぱくぱくと口を開けながら晴人を見る。
 
「やっぱ太陽は雲に敵わねぇよなー」
 
 なんて苦笑している晴人の隣で、すでに人間の姿になった時雨さんも同じように深く頷いていた。
 
「普段はふわふわと掴みどころのない彼ですが……ひとたび本気を出せば太陽を遮り雨を支配できる力を持っている。八雲くんほど底知れない男はいませんからね」
 
 そ、そうなの?
 
 いつも遠慮がちに笑う八雲くんしか知らない私には、衝撃だったけど……確かにお天気の雲としての姿を考えてみれば頷ける。
 
 空にある雲は物言わず浮かんでいるだけだけれど、入道雲みたいにもくもくと増えては夕立を引き起こしたりする。
 
 ひなたぼっこが気持ちいいのも雲がうまくどいてくれているおかげであって、雲がその気になったらたっぷり湿気を含んで集まって大雨を引き起こすこともできるのだ。

 
 もしかして……いや、もしかしなくても、一番敵に回しちゃいけない、手強いのって……八雲くん!?

 
「や、八雲くん。あのね」

「はい」
 
「ええっと……離して、くれるかな」
 
「い、いや……です」
 
「えええ……」

 もぞもぞと動いて八雲くんの腕から逃げようとしたけど、腕の力は強まるばかり。
 
 や、やっぱり男の子なんだ……
 
「学校に遅れちゃうから、ね?」
 
「……そうですね」

 正論で諭せば、口では了承してくれたけれどちっとも離してくれるつもりはないみたい。
 
 うーん。このまま引きずって行くのは難しそう……