てるてる坊主を作っただけなのに、お天気男子の溺愛が止まらないのですが!

「おはようー」
 
「あら? ななみ、それ……」
 
 
 翌朝。お母さんにはやっぱり気づかれた。
 
 リュックにつけた透明ポーチとその中身。
 
 
「てるてる坊主? 可愛いじゃない。ななみが作ったの?」
 
「そ、そう! うまくできたからずっと一緒にいたくって」
 
「へええ、それぞれ顔が違うのね。いつ作ったの?」
 
「お、一昨日かな……」
 
「ああ、マラソン大会の前の日ね。大方逆さに吊るしたんでしょう」
 
「ふえっ!?」
 
 
 見てきたかのように言い当てられてびっくりした。
 
 飛び上がった私が面白かったのか、お母さんはけらけら笑う。
 
「あれだけ雨になれ雨になれーって祈ってたんだもの。きっとてるてる坊主がななみの願いを聞いてくれたのね」
 
「そ、そうかな……」
 
 ちらりとポーチの中を見る。
 みんなの表情は私が描いた時から1ミリたりとも動いてない。
 
「なーんて、その前の日から天気はおかしかったものね。ほら、お母さんとお父さんが帰り遅くなったじゃない」
 
「う、うん」
 
 忘れてなんていられない。
 
 あの雷からすべては始まったのだから。
 
「でも、昨日のゲリラ豪雨はななみの学校のあたりだけだったろう?」
 
 朝ごはんを食べ終わったお父さんが食器を下げながら言う。
 
 そうだ、昨日はあんな天気になったにも関わらず、その範囲は本当に限られた場所だけだったのだ。
 
 雨雲レーダーで昨日の雨雲を振り返ってみれば、ちょうど私の学校を中心とした数キロ圏だけにあの雷と雨が降っていた。
 おかげでお父さんは仕事にも影響が出ずに、いつもの時間に帰ってこられたっけ。
 
「俺は社内にいたからそんな天気になってるなんてちっとも知らなかったが、ななみの学校付近を通った同僚だけが洗車したみたいにずぶ濡れになって帰社したっけなあ」
 
「お父さんの仕事とななみのマラソン大会、両方に配慮してくれたみたいで雨雲様様ね」
 
 何も知らないお父さんとお母さんが笑うのを聞きながら、ドキドキしつつポーチの中を見る。
 
 思い出すのは、雷雲や雨雲を呼ぶ時に鳴神と時雨さんが見せていた仕草だ。
 
 あれはきっと、雲が広がりすぎないように範囲を調節してくれていたのだろう。
 
 最小限の影響で、最大限の効果を引き出せるように。
 
 2人とも何も言わなかったけど……私がお父さんやお母さんが困るって言ってたから気を遣ってくれたんだ。
 
 今日、人間に変身した時にちゃんとお礼を言わないとな。
 
「ふふ」
 
 ポーチの上から4つのてるてる坊主をぽんぽん撫でる。
 
 表情はもちろん変わらないけれど……でも、なんだか笑っているように見える。悪い気はしない。
 
「ずいぶんお気に入りなのね、それ」
 
「っう、うん!」
 
「失くすなよ? 既製品ならまだしも、手作りは替えがきかないからな」
 
 
 お母さんの言葉に浮かれた心が、お父さんの言葉でぐっと石でも飲んだみたいに重たく沈む。
 そうだ。人間の姿の時は好き勝手喋ったり動いたりしてるけど、てるてる坊主になってしまったら文字通り手も足も出ないのだ。
 
 
 ――私がみんなを守らないと!
 
 
 決意も新たに顔を上げる。
 なんだか張り切ってるなあ、と間延びした声のお父さんを背中に聞きながら、私は行ってきますの挨拶と共に出発した。