てるてる坊主を作っただけなのに、お天気男子の溺愛が止まらないのですが!

 学校へと急ぐ私の通学リュックには4つのてるてる坊主が揺れている。
 
 これが私のチカラの源。
 
 男の子の状態では家に置いておけない私のために、4人はてるてる坊主の姿に戻ってくれたのだ。
 
 タイミングを見て元に戻るらしいけど……それがいつかはわからない。
 
 校門に着いて空を見上げる。
 今にも降り出しそうな黒い雲が学校の上をずうんと覆っていた。
 
 昇降口で靴を履き替えていると、やっぱりこの天気でマラソン大会がどうなるか気になる子が多いみたいで、噂しあう声が聞こえた。
 
「おはよ、ななみ」
 
 教室に入ると千結ちゃんが席から手を振っていた。
 
 おはようと返して、自分の席にリュックを置かないまま千結ちゃんの席に向かう。

 そこにはもう莉亜ちゃんがいたけれど、ふたりはお喋りしてるわけじゃなくて、莉亜ちゃんが窓辺に向かってブツブツと一心不乱にお祈りしていた。
 
「神様仏様推し様お願い雨よ降れ降れマラソン大会押し流せーーっっ!!」
 
 
 うわあ、私に負けず過激なお願いだ。
 
 やっぱり莉亜ちゃんも同志だった。
 
 
「り、莉亜ちゃんおはよう……このまま雨が降るといいよね」
 
 おはようの挨拶はスルーされかけたけど、雨の単語にぴくりと反応した莉亜ちゃんはハッと振り向いて私を見た。
 
「雨っ! そうよななみちゃん、雨よ雨! 雨さえ降ればマラソン大会が無くなるんだから!」
 
「そ、そうだね」
 
「あはは、莉亜ったら今朝からそればっか……でもななみ、意外と落ち着いてるね?」
 
「えっ」
 
 千結ちゃんはぴんと立てた人差し指を揺らす。
 
「ななみもマラソン大会撲滅過激派じゃん? 昨日なんて莉亜と一緒に雨乞いの旅に出かねない勢いだったのに、この天気見ても平常心だし……あれか、一周まわって悟った?」
 
「悟ったって、私はお坊さんかい」
 
 お坊さんみたいに手のひらを縦にして拝む千結ちゃんが面白くてけらけら笑う。
 
 
 鋭いな、さすが千結ちゃん。
 
 
「予定では9時までに雨が降ってたら中止だもんね。あと30分か……降るかなあ」
 
「お願い降って降って降りしきって土砂降りカモーン!」
 
 時計と空を交互に見上げる。きっと、そろそろ鳴神がやってくれるはずだ。
 
 そこで、背中に何か振動を感じた。
 
 
 ――いよいよ、始まる。