と、一人神経を尖らせる俺をよそに、千歳はあろうことかさらに距離を詰めて座り直してきた。
またあの時みたいに、触れるか触れないかギリギリの距離感。
くっそ、またかよ……負けんな、俺。素数を数えろ素数を。さん、よん、ご……
いやまず素数を知らねぇわ。
コイツは犬、ただの犬。慈善活動で拾ってきた雨晒し捨て犬……。
と、必死に平常心を保とうとする俺の努力など知らず、千歳は涼しい顔で話しかけてくる。
「にしても、お手伝いさんの数すごいですね、この家」
その言葉に、ぎくっと動きが止まる。
お手伝いさん──というか、ほとんどが組織の下っ端構成員で、雑魚だから雑用やらされてるだけだ。
こうしてどっかから帰ってくるたびに『若!!お疲れ様でございます!!』と揃って最敬礼してくるからたまったもんじゃない。
目立つのは嫌いじゃないけど、単純にクソダサいから嫌なのだ。
いつまでやるつもりなんだよこのコッテコテのステレオタイプヤクザ。時代は令和だぞ?
俺だって他の組みたいに都内タワマン一棟貸切でスタイリッシュに暮らしたいのに、親父はなんで頑なにこのド派手な和風豪邸にこだわり続けてんだ。センス化石か?昭和のVシネじゃねぇんだから。
