時刻は23時30分。

床に散らばったスナックの袋、空のカップラーメン、飲みかけのジュース。

あり合わせの軽食で夕飯を済ませたあと、どうでもいい話をとりとめなく続けていたら、気がつけばこんな時間になっていた。

本当なら、もうとっくに自室に戻っているべきだった。

けれど、今日だけはそんな気にはなれなかった。

頭のどこかがずっと重くて、胸の奥がざわざわしている。

オーディションで張り詰めてきた糸が、ぷつんと切れたような、そんな感覚。

このまま部屋に戻れば、きっと布団の中で延々と反芻してしまう。

私は一体何をしてるんだろうとか、こんなに自分を押し殺さないといけない人生ってどうなんだろうとか。

だから私は、帰る気になれなかった。遥風の隣にいないと、ダメな気がした。

「……お前、いつまでいるつもりなの」

ふと、遥風がぼそりと呟くように言った。

咎めるでもなく、ただ淡々とした声だったけど──私は、ちょっと肩をすくめて、ぽつりと呟き返した。

「……帰りたくないなぁ」

自分でも驚くくらい、情けなくて、子どもみたいな声。

遥風は、何も言わなかった。
ただ一瞬、微かに瞳が揺れた気がした。

そうして再び部屋に落ちる沈黙。

いつもなら、間を持たせるために私が話題を振る。けれど今日は、その気力も残っていなかった。