私の腕を掴んだまま、周囲に人がいないかさっと視線を巡らせた後。
ぐいと私を引き寄せて、耳元に唇を寄せる。
「──作戦。そろそろ動かさなきゃでしょ?」
ドクン。
その一言に、大きく心臓が跳ねた。
……九条霞のことだ。
京は硬直する私に軽く微笑みかけると、腕を掴んでいた手を離してポケットに突っ込む。
「行こ。俺らの階に、人来づらいスペース見つけたから」
少し首を傾げて、そう提案してくる京。
さっきの『人気のないとこ』って、揶揄いじゃなくて……そういう意味だったのね。
先ほどまで霞も不在で、完全に日常モードに緩み切っていた精神が、一気に張り詰める。
ちょうど私も、そろそろこちらからアプローチを仕掛けなきゃなと思っていたところだ。百戦錬磨の峰間京がこうして協力してくれてるんだから、その厚意には遠慮なく甘えさせてもらおう。
こく、と小さく頷いた私に、京はわずかに口元を緩め、くるりと踵を返す。
私もそのあとを追って、二年生のフロアに続く階段を再び上り始めたのだった。
