冷たい目。涼しい顔。いつも通り、飄々とした佇まい。

痛みに顔を歪めながら、琥珀は遥風をキッと睨みつけた。

「何しやがんだよ、テメェ……!」

混乱と憎悪が混じって、少し裏返った怒鳴り声。

遥風は片頬を歪めて笑い──そして、ぐいっと琥珀の胸ぐらを掴み上げる。

「敬語使えっつったろ?」

冷え切った、有無を言わさぬ声音。

琥珀の表情が凍りつく。

「汚え手で千歳に触ってんじゃねえよ」

その冷たい表情、殺気だった視線。見ているこっちまで息が止まりそうになる。

遥風は、無造作に琥珀を突き放すと、今度は私の手を取った。

そして、何も言わずに私の手を引いて歩き出す。

「おいっ、待てよ……!」

慌てて追いかけてこようとする琥珀が、ふらついて頭を押さえた。

え、大丈夫……?脳震盪とか起こしてない?

一瞬心配になったけれど、今はとにかくこの場を離れるのが先だ。

琥珀から目を逸らして、そのまま足を速める。

ツカツカと進んでいく遥風の背中に、私は恐る恐る声をかけた。

「遥風、ありがとう……けど、琥珀のこと、あのままにしておいて大丈夫?」

「仕返しされるかもってこと?」

──あ、そっちじゃないんだけど。

琥珀の体調の方……と訂正する間もなく、遥風は無言でスマホを差し出してくる。
画面には録音アプリの再生ボタン。

疑問に思いながら押してみると、そこから流れてきたのは──

『お前の恥ずかしい画像は匿名でネットにばら撒いてやるよ。お前みたいなの、一部にはめちゃくちゃウケ良さそーだし。稼げるなぁ、また』

琥珀の、あの最低な脅し文句だった。

「これ……」

「もしまた何かつまんないこと考えたら、これで終わりにできるだろ」

静かに言い放つ遥風。ちょっと息を呑む。やっぱこの人、こういうところは抜かりないんだな。

決して感情のまま突っ走るタイプじゃなくて、こうやって状況を見極めて冷静に手を打っておけるあたり、伊達に芸能界で生きてきたわけじゃないんだ。

そんなことを考えていると、遥風がふと立ち止まる。

目の前には寮棟の一室。遥風の部屋だった。