考え直してくれたのかと、一瞬だけ安堵したように口元を緩ませる琥珀。だが、その顔が凍りつくのに、さほど時間はかからなかった。

「……取り巻き作って立場固めて、楽しい?」

冷え切った声で言い放つ。琥珀の表情が険しくなるのも構わず、さらに続けた。

「小賢しい真似してないで、実力で勝負したら? ネットで人気だからって調子に乗らないでよ、クソ雑魚インフルエンサー」

嘲るような笑みを浮かべ、見下ろすように視線を落とす。琥珀が積み上げてきたものを、真っ向から踏みにじるように。

──効いたらしい。

琥珀の顔が怒りと屈辱に染まり、わなわなと体を震わせる。
これで、彼はもう私にしつこく付き纏ってくることはないはず。

そう思って、私が踵を返そうとした次の瞬間──乱暴に腕を掴まれ、引き戻される。

「ポッと出のお前なんかに……何が分かるってんだ?」

低く押し殺した声。その奥に、燃え滾るような怒りが透けて見えた。

……分からなくはない。ネットで築き上げたファンダム、その期待に応えなければ一瞬で手のひらを返される世界。今の地位を守るためには、どんな手を使ってでも勝たなければならない。その焦りが、琥珀を邪道へと走らせたんだろう。

けれど、そんな理解なんか示してやらない。冷え切った視線を琥珀に向けていると、怒りが最高潮に達したのだろうか、琥珀が唇の片端を歪に持ち上げた。

「優しくして落とそうと思ってたけど──やめた」

悪意の滲んだ視線。背筋に冷たいものが走る。

あ、やばい——そう直感した瞬間、両手を壁に押さえつけられた。
そして、琥珀の手が私のシャツのボタンにかかる。
予想外の行動に、心臓が跳ね、思わず息を呑む。

「なっ、何して……!」

「脱げよ」

「はっ……?!」

背筋が、凍りついた。言葉を失う私に、琥珀はくくっと笑いながら続ける。

「写真撮って、皆戸遥風と灰掛遼次に送りつけてやるからさ。大切なお姫様が、先に菅原琥珀に手出されたなんてことになったら、どんな顔すんだろーな」

そういう、こと。

自分を問題児扱いし、何かと口を出してくる皆戸遥風。格下にも関わらず、生意気にも自分からパートを奪った灰掛遼次。

菅原琥珀にとって憎い2人。そんな彼らが共通して執着する相手が私、榛名千歳だったから。
だから、琥珀の矛先が私に向いたんだ。

ほんと、想像以上のゲス野郎……。