「その呼び方やめてよ、気色悪い」
疲れている時にダル絡みされたことへの不快感をそのままぶつけるように、キツい口調で言う。
しかし、引き下がる気配はまったく無い琥珀。
むしろ、楽しそうに目を細め、私の肩に手を回してくる。
「お?素の性格、初めて見たかも。ガチのツンデレじゃん♡」
だから、デレてはないでしょうが………!
露骨に顔をしかめて距離を取ろうとするけど、肩に回された彼の腕がそれを許さない。
私の身体をがっちりと捕まえたまま、ポケットからスマホを取り出す琥珀。
「てかさ、今更だけどインスタ交換しねー?」
うーん、嫌だ。
「……嫌」
素でそう言うと、琥珀はわざとらしく唇を尖らせた。
「ふーん、いいの?必要なら俺の垢で宣伝してやれるのに」
その目に瞬くのは、計算高い光。
なるほど、取り巻きたち3人にも、きっとこうして近づいたのだろうな。
そんな私の沈黙を、迷いと受け取ったのか、さらに耳打ちしてくる琥珀。
「姫なら、他の奴らより好待遇にしてやるよ。例えば、本格的に俺のチャンネルに出してやってもいいし」
……あそこまで自分をサポートしてきてくれた取り巻き3人を差し置いて、今までほとんど絡んでこなかった私を優先する、と。
なんというか、本当に浅ましい。
私は何の表情も浮かべず、静かに椅子から立ち上がる。
「?!おい、どこ行くんだよ」
「帰る」
ピシャリと突き放すような声で言うと、琥珀が苛立ったように舌打ちしたのが聞こえた。
「お前バカなの?放送前に売名できるチャンスだぞ?」
往生際悪く追いかけてくる琥珀。嫌悪感が背筋を駆け巡った。
本当なら、今すぐ走ってでも逃げ出したいくらいだけど……でも、琥珀は人気と実力のある有望株。
やっぱり、ここで確実に嫌われておいた方がいい。
私は足を止め、振り返った。
