そんな危うい人間関係の中で、私たちはなんとか練習を進め、中間発表を乗り切った。
遼次のラップアレンジが加わったこともあり、楽曲のインパクトが最大限に磨かれたので、全体的に審査員たちには好印象だった。
しかし、やっぱりまだそれぞれの我流感が抜けないこと、そして、遥風の表現力に関しての指摘が残った。
『遥風くんは、きっともっとできると思うんですよ。けど、どこか自分を凡人だと決めつけて、力を制限してしまっている感じがしますね。スペックは高いのだから、もっと自信を持っていいと思います』
凛也の講評を、その場では笑顔で受け止めていたが、発表後には悔しげに下唇を噛み締めていた遥風。
彼のパフォーマンスは、上手い。文句なしの技術を持っている。にも関わらず、どこかインパクトに欠けるところがある。
それは、私が一次審査の時から彼にずっと感じていたことだった。
そして、その翌日。
遥風のやる気に火がついたのだろうか、彼の意向でいつもよりずっとハードな練習が行われた。
いつもの練習でも体力が限界になる私が、今日の練習に耐えられるわけもなく。
流石に体が悲鳴を上げ、ぐわんぐわんと脳に響くような頭痛に見舞われた。
いつもは遥風からの夕食の誘いを媚び売りのために受けていたのだけど、今日は『食欲が無い』と言い訳して断った。
本気で体調が悪そうな私を見て、流石の遥風もあまり食い下がってこなかった。
そんなわけで今、私は1人でスタジオ前の休憩スペースのソファに身を沈めている。
休んでいると頭痛は少しおさまってきたけれど、相変わらず疲労は溜まって、全身が鉛のように重たい。
人間の三大欲求は、2つ同時には来ないと言われているけれど、少し納得できる。
今は睡眠欲が勝って、どう考えても食事が喉を通りそうにない。
汗拭き用に持ってきたタオルを目の上に乗せ、1人クールダウンしていると。
「だーれだ」
背後から誰かに囁かれ、ビクッと体を震わせた。
あまり慣れない声と匂い。この少年みたいに悪戯っぽい声音はきっと……。
「……琥珀?」
「やっほー、姫ちゃん」
ひょい、とタオルを取り去り、隣にドサッと腰を下ろしてくる琥珀。
……正直、今は人と話す余裕はあんまりない。少しでも頭を動かしたら、また頭が痛くなっちゃいそうで。
けど、今は幸運にもカメラのいない時間帯。つまり、有望株・菅原琥珀に嫌われるチャンス。
今まで、あまりカメラのない場所で絡む機会が無かったから……億劫だけど、この機会に嫌われておこう。
遼次のラップアレンジが加わったこともあり、楽曲のインパクトが最大限に磨かれたので、全体的に審査員たちには好印象だった。
しかし、やっぱりまだそれぞれの我流感が抜けないこと、そして、遥風の表現力に関しての指摘が残った。
『遥風くんは、きっともっとできると思うんですよ。けど、どこか自分を凡人だと決めつけて、力を制限してしまっている感じがしますね。スペックは高いのだから、もっと自信を持っていいと思います』
凛也の講評を、その場では笑顔で受け止めていたが、発表後には悔しげに下唇を噛み締めていた遥風。
彼のパフォーマンスは、上手い。文句なしの技術を持っている。にも関わらず、どこかインパクトに欠けるところがある。
それは、私が一次審査の時から彼にずっと感じていたことだった。
そして、その翌日。
遥風のやる気に火がついたのだろうか、彼の意向でいつもよりずっとハードな練習が行われた。
いつもの練習でも体力が限界になる私が、今日の練習に耐えられるわけもなく。
流石に体が悲鳴を上げ、ぐわんぐわんと脳に響くような頭痛に見舞われた。
いつもは遥風からの夕食の誘いを媚び売りのために受けていたのだけど、今日は『食欲が無い』と言い訳して断った。
本気で体調が悪そうな私を見て、流石の遥風もあまり食い下がってこなかった。
そんなわけで今、私は1人でスタジオ前の休憩スペースのソファに身を沈めている。
休んでいると頭痛は少しおさまってきたけれど、相変わらず疲労は溜まって、全身が鉛のように重たい。
人間の三大欲求は、2つ同時には来ないと言われているけれど、少し納得できる。
今は睡眠欲が勝って、どう考えても食事が喉を通りそうにない。
汗拭き用に持ってきたタオルを目の上に乗せ、1人クールダウンしていると。
「だーれだ」
背後から誰かに囁かれ、ビクッと体を震わせた。
あまり慣れない声と匂い。この少年みたいに悪戯っぽい声音はきっと……。
「……琥珀?」
「やっほー、姫ちゃん」
ひょい、とタオルを取り去り、隣にドサッと腰を下ろしてくる琥珀。
……正直、今は人と話す余裕はあんまりない。少しでも頭を動かしたら、また頭が痛くなっちゃいそうで。
けど、今は幸運にもカメラのいない時間帯。つまり、有望株・菅原琥珀に嫌われるチャンス。
今まで、あまりカメラのない場所で絡む機会が無かったから……億劫だけど、この機会に嫌われておこう。
