あ、本当は自分は寒いけど、私のために下げてくれてる?

確かに、今日の彼のトップスはゆるっとした半袖Tシャツだけ。冬だっていうのに、これ以上下げたら寒いよね。

ただでさえ喉の調子悪いのに……このシーン放送されたら、遼次ファンから『暑い奴が脱げよ』って叩かれる恐れもある。

あ、そういえば私、寒かったら着ようと思ってパーカー持ってきてたっけ。

私は慌ててガサゴソと荷物を漁り、パーカーを取り出す。だいぶオーバーサイズだし、遼次でも着れるはず。

「ね、遼次。寒いならパーカー貸すよ」

私の言葉に、一瞬表情を固まらせる遼次。
もしかして衛生面を気にしてるのかな、と思って続ける。

「洗濯してから1回も着てないから、汚くはない……」

そう言い切る前に、遼次がツカツカと歩み寄ってきて、ひょいと私からパーカーを受け取った。

「……ありがと」

そう言う遼次の頬が、わずかに紅潮していることに違和感を覚える。
パーカーをギュッと握る指先に、少し力が込められていることに気づく。

あれ……。

ミスったかも、と気づいた瞬間、横に座る遥風が口を開いた。

「お前、自分の上着持ってこいよ」

鋭い視線で睨まれるも、意に介さない遼次。

「いや、面倒なんで」と軽く答えてから、私のパーカーをふわりと羽織る。

そしてどこか愛おしげに目を細め、ブカッとした袖を少し顔の方に引き寄せる。その仕草に、思わず心臓が跳ねた。
昨日のように、少し照れたように目を伏せる彼の表情を見た途端、ああ、私は完全にミスったんだと確信する。

内心顔を引き攣らせる私の隣に、少し躊躇いつつも腰を下ろしてくる遼次。

「なあ、千歳」

心なしか、いつもよりも柔らかな声音で名前を呼ばれた。

遥風を刺激しないように少し距離を取りつつ、「何?」と聞き返す。

「なんか……悩んでることとかあったら言えよ。俺で良ければ、いつでも相談乗るし」

そう言って、ちら、と遥風に視線を映す遼次。彼も、遥風の態度が今までと変わったことに気付いたんだろう。

その意味ありげな行動に、少し苛立ったように眉根を寄せる遥風。
遼次と遥風、2人の視線は交わっていないものの、バチッと大きな火花が散る音が聞こえた。

まずいなぁ。

計画がどんどん狂っていくのを感じ、私は頭を抱えたくなった。

遥風に男装がバレるまでは、上手くいってたのに……。

明らかに普段と様子が違う2人を遠巻きに見るメンバーたち。

「姫、大変そやなぁ……」

呆れたような声音でポツリと呟く飛龍、その横でこれ以上ないほどムスーッと不機嫌な顔をする明頼。

そして、彼らから少し離れたところで、顎に手を添えじっと考え込むような表情の琥珀。

一体彼が何を考えているのか──その真意を探る余裕は、今の私には無かった。