普通、高級焼肉店ではスタッフさんが焼いてくれることも多いんだけど、今回はそういうのは無いらしい。
多分、焼く工程も含めてコンテンツとして撮影するために、番組側が断ったのだろう。
その証拠に、さっきまでカメラの機材設定を確認していたスタッフさんたちが、肉を焼き始める空気になった瞬間、一斉に撮影モードに切り替わり始めている。
「じゃ、そろそろカメラ回しますからね。コンプラ配慮でお願いしますよー」
「善処しまーす」
カメラさんの合図に、明らかにやる気のない返事があちこちから上がった。
死ぬほど不安そうなスタッフさんたちの視線が救いを求めるように私へ集まってきたけれど、私は気づかないふりをして肉を焼くのに集中する。
申し訳ないけど、いちいち彼らの炎上の芽を潰すことに気を取られていてはシャトーブリアンの方が炎上してしまう。
私は数十万円分の責任を背負って、誰かがセクハラしてきても共産党宣言唱えてもテロ行為に及んでもフルシカトしてシェフに徹するから、後からお得意のツギハギ編集でどうにかしてください。
そうして心を鬼にした私は、高級肉を一枚一枚丁寧に網に乗せてゆく。
網の上で脂が弾ける音、男子たちのくだらない会話。そんなBGMの中で、私はただひたすら、焼き加減を見て肉を裏返すという単調な作業を繰り返すのだった。
