最近の練習の様子を見て、冷静沈着なイメージが先行していたけれど。
何かの拍子に、カッとなって私の秘密をバラしてしまう危険性がある。
……改めて、もっとちゃんと遥風に気に入られておかないといけないかもしれない。
そう思った瞬間から、私は頭をフル回転させ始めた。
私は、彼にとってメリットのある存在でいないといけない。
どうすれば、彼の機嫌を戻せる?どうすれば、彼を安心させられる?
もし、彼が遼次に嫉妬し、焦燥感を抱いているのだとしたら──
私が、彼に『優越感』を与えてあげればいい。
もっと自分を、彼にとっての『所有物』みたいに見せればいい。
そう考えたとき、ひとつだけ、最も効果が高そうな方法が浮かんだ。
──あらゆる不安が頭をよぎったけれど、それでも背に腹は代えられない。
躊躇を振り切って、一歩、彼に近づく。
そして、彼の胸に額をあずけるように、そっと身を寄せた。
「……嫌われたかと思った、良かった」
震えるように絞り出した声。
もちろん演技。わざとらしいくらいしおらしく、庇護欲をかき立てるように。
遥風の体が微かに強張ったのが分かった。
一秒、二秒。
彼の手が、どこにも触れてこないことに、逆に緊張感が走る。
この一手、失敗だったかな──と不安になりかけたそのとき。
「……はあ、マジで……お前……」
低く吐き出すような声が、頭の上から落ちてきた。
「自分の容姿がどう見えるか、ちょっとは自覚しろ」
