──翌日。
結局、仮病は同室の峰間京に秒で看破され、私は半ば強引に焼肉イベントへと連行されることとなった。
『熱出したって言ったらまた遥風に捕食されちゃうよ』
『遥風に食われるか俺と一緒に肉食うか、どっちか選びな?』
と、そんな最悪の食物連鎖みたいな選択肢を提示され、結局引きずられてきてしまったのだ。
別にあの時の遥風は熱だからって迫ってきたわけじゃないと思うけど、そんなフォローをしたら京が不機嫌になることは分かっていたから口をつぐんでおいた。
そんなこんなで到着したのは、見るからに敷居が高そうな、格式張った高級焼肉店。
磨き上げられた黒の御影石の外壁に、浮かび上がる金色の店名ロゴ──入り口には黒服のスタッフが立っていて、「お待ちしておりました」と深々と頭を下げて出迎えてくれる。VIP?
気圧されながらも中に入れば、まず鼻腔をくすぐったのはほのかに漂う白檀の香り。これが権力の匂いか。
焼肉屋というより高級ラウンジみたいな廊下を抜け、私たち一同は広々とした個室空間に通された。
黒いレザーのL字ソファ、最新式の無煙ロースターが埋め込まれたテーブル。
壁には現代美術的な絵画がかけられていて、兎内双子が「ヤバいこれ。僕にも書けそう」「禁煙三日目くらいの静琉さんに似てね?」と失礼極まりない話をしながら見ている。
私はまだそこまで肩の力を抜くことができず、圧倒されてただキョロキョロと個室を観察することしかできない。
と、そんな私の耳元に、不意に声が落ちてきた。
