さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


「?!」

反射的に、バッと手を離す。
自分の突拍子もない行動を処理しきれず、1人パニックになる。

え……やばい。思考より先に手が出るなんて、らしく無さすぎる。

「ご、ごめん遼次、なんか、急に……」

「いや……」

じわ、と頬を紅潮した頬を隠すように、手の甲で顔を覆い目を逸らす遼次。
いつもクールな彼の表情が思いきり崩れたことで、反射的にドキッと心臓が高鳴る。

あ、遼次って、そんな顔もするんだ……。
なんて、ぼーっと考えていた、次の瞬間。

ぐいっ。

勢いよく肩を引き寄せられ、いつもの爽やかな匂いが濃く香る。

「お前、眠いんだろ。そろそろ帰るぞ」

至近距離で私を睨んだのは、遥風だ。不機嫌そうな表情に、少し息を呑む。
また、所有欲の滲む視線。
やらかしたかも。

遥風は返事も聞かず、無理やり私を立たせる。

「ごめん、遼次。コイツ疲れて距離感おかしくなってるわ。帰って寝かせる」

呆気に取られたように目を瞬かせた遼次の前で、遥風は私の言葉も聞かずに、ぐいと私の腕を引いた。
有無を言わせぬ力強さ。

まるで、「もう喋るな」と言わんばかりに。

半ば引きずられるようにして、私はスタジオを出て、寮棟のラウンジへと連れてこられる。

「ちょ、遥風……痛い」

思わず漏れた抗議の声。

その瞬間、遥風が立ち止まり、ゆっくりとこちらを振り返った。

ノーセットの前髪の奥に見える瞳が、真っ直ぐに私を射抜く。
どこか笑っているような口元。けれど、目はまったく笑っていない。

「お前、なんなの」

淡々とした口調。その静けさが逆に怖かった。

「灰掛遼次に気があるわけ?」