さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



……あ。


視線を向けると、扉の向こうに立っていたのは──巫静琉。

先ほど壇上に立っていたときと同じ格好なのに、全く別人に見えてしまうくらい、気の抜けた佇まい。

その指先には火のついた煙草が一本挟まれていて、特有の刺激臭が鼻をついた。


「……せっかく口説き落とせそうだったのに邪魔すんじゃねえクソジジイ、という目をやめてもらえるか」

「すげー静琉ちゃん。一言一句違わず正解」

「……あんま社長のことちゃん付けで呼ばないよ」


CEO相手にも通常運転を崩さない京に呆れてツッコむ。

私が静琉の素の性格を知らなければ冷や汗ダラダラの展開だったろうけれど、幸い彼は上下関係全スルーの変人。

案の定、静琉は京の態度にピキる様子もなく、「まぁ入れ」と気怠げに私たちを手招いた。


そうして私たちが足を踏み入れたのは──前回と何も変わっていない、いや、むしろ酷くなっている気がする汚部屋。

しかもこれでもかってくらい煙草の匂いが充満していて、うっと顔を歪めてしまう。何これ……受動喫煙テロ?流石に耐えられなくて、私はすぐさまツカツカと部屋の窓に歩み寄り勢いよく全開にした。


「非喫煙者密室に呼んでおいてチェーンスモーキングとか正気ですか?」

「椎木篤彦にも言われた」

「そりゃそうでしょうね」


篤彦と意見が重なってしまったことは複雑だったけれど、この件に限っては流石にその反応が普通だと思う。

きっと京も流石に嫌な顔をしているはず──そう思って振り返ってみると、意外にも彼は特に気にしていないみたいだった。