期待と不安が入り混じる中、遼次が口を開く。

『One for the money, Two for the game ヌルい街 Bang You’re gonna burn in the flame…』

マシンガンのように次から次へと発せられる怒涛のライム、聞き取りやすくも攻撃的な発声。
アングラでの活動経験があるというのも納得な、並外れたラップスキル。

ラップには大きく分けて、2つのスタイルがある。

『グルーヴ重視のフロウ型』と、『言葉の鋭さで切り込むリリック型』。
彼のスタイルは、完全に後者の模範解答といった感じだった。

言葉で殴り飛ばし、起き上がる間もなくさらに追い討ちをかけるような、そんな息をつく暇もない鋭いディスが耳に流れ込む。

一次審査での彼の楽曲がバラード系だったせいで、引き出せていなかった彼の『本物の』魅力。
彼のラップの、刺すような鋭い雰囲気が加われば、パフォーマンス全体の印象がグッと引き締まる。
今までボーカル能力のみで勝負していため、他の参加者に埋もれてしまっていたけれど、この方向性であればかなり鮮烈なインパクトを残せるはず……。

1人、口元を抑えて衝撃を飲み込んでいた、その時。

「うわっ、激アツーーーー!これが伏線だったの?!?」

二段ベッドの下から急に聞こえてきた大声に、ビクッとして思わずスマホを取り落とす。
おそらく、漫画を読んでいる京の感想。
ちょっと、せっかく聞き入ってたのに、邪魔しないでよ……。

私は軽く舌打ちすると、イヤホンを外して、階下の京に文句をぶつける。

「京、静かにして」

「え何、女と電話ー?」

「違う、普通にうるさい!」

京にキツめに注意してから、再びイヤホンをつけ直す。

いくら私を空気みたいに思ってるからって、急に大声を出すのはいただけない。流石に配慮してほしい。
そんなことを思いながら、再びスマホの画面に視線を落とし──思わず、硬直した。

ミュートが、解除されてる……。