さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜




『明けの道 堕つる道とは 交わらず──』



激しい音がパタリと止み、あの日の笛の音だけが残るアウトロ。


千歳くんだけがゆっくりと一人、前に歩み出し──

首元の赤い組紐に、手をかける。


ふっ、と、涙を堪えるように浮かべた、やさしい微笑を最後に。



『──月白を 窓辺に抱く 花時雨』



しゅるり……と白い首筋から解かれたそれが、静かにステージ上に落ちた。



────暗転。



歓声は、ない。

数万人の観客の誰一人として、たった今まで眼前に存在した哀しい物語の結末を前に、言葉を紡ぎ出す術を持たなかった。



脳がぼんやりと痺れ、ろくに思考すらできない。

ただ、頬の上を、あたたかな涙だけがとめどなく伝っていた。いつから泣いていたのかは覚えていない。そんなことはもはやどうでも良かった。



──ああ。

なんという、生々しい輝き。



架空の物語をなぞっているだけのはずなのに──

まるで、彼らの人生のひと幕を覗き見てしまっているみたいだった。


これまで彼らを『アイドル』という記号として、消費物として享受していただけの自分が、たまらなく恥ずかしい。

彼らは決して、商品なんかじゃない。


一度きりの一生を全力で煌めいて、己の物語をこの手で掴み取ろうとする──

誰よりも強かな、主人公たちだ。


私ってもしかして、とんでもない『伝説』の目撃者になっているのかもしれないな……。

そんな戦慄くような予感に、私はただ、震える指先を握り込むことしかできなかった。