『けど、俺アングラでやってたんで、大衆受け悪いと思って避けてて』
少し気まずそうに、遼次が言う。
アングラ──アンダーグラウンド。
商業的な音楽シーンであるメジャーシーンとは異なり、自立的な活動を中心とするヒップホップの文化のこと。
大衆にウケのいいパーティーソングではなく、メッセージ性の強いリリックや個性的な音楽性が盛んな世界。
その少し荒んだ目つき、ゴツめのアクセサリ、ダボッとしたシルエットのボトムスを好んでいるから、ヒップホップ系が好きなんだろうとは思っていたけれど、まさかの本職だったなんて。
アングラシーンでは、自分でビートを作り、リリックを書き、音楽を生み出すことが当たり前。楽曲の編集に異様に慣れているのも頷ける。
確かに、『アイドル』を求めてやって来る視聴者に、『ラッパー』の姿を見せるのはお門違いだと心配する気持ちも分かる。
けど……多分、この楽曲に彼のスタイルはマッチする予感。
そもそもヒップホップというのは、『裏社会』との強いつながりを持つ。
アメリカ・ブロンクスのストリートギャングが起源であり、昔から、ブレイクダンスやラップバトルは、ギャング同士の抗争を武器なしで平和的に解決するための手段として多く用いられてきた。
暴力の代わりに言葉で殴り合う文化。
だからこそ、暴力、犯罪、ドラッグ……そんな過激なテーマも多く含まれるようになったのだ。
だからきっと、『裏社会』をテーマにしたこの課題曲『SYNDICATE』との相性は良いはず。
『経験あるなら、一旦即興でやってみれる?』
『……やってみます。ビートは?』
遥風の提案に、淡々と答える遼次。
ちょっと考えるような間があってから、再び口を開く遥風。
『SYNDICATEのインストでいい?』
『あー、おけっす』
画面越しに流れる『SYNDICATE』のイントロ。ベースを強調したハードなビートが際立つ、ラップとの親和性も高い楽曲。
即興で、どこまでこの曲のエッセンスを抽出し、言葉で表現できるのか。
