その日から、彼は膨大な金を費やしてまで、少女のもとに通うようになる。
彼はまだ若い。
今や店の看板である彼女の部屋を何度も訪れるなど、その経済的な負担は想像を絶するだろうに。
彼は平気だと言い張って、毎晩毎晩律儀に贈り物まで用意して会いにくる。
帯留、鏡、櫛、かんざし……。
逢瀬のたびに増えていく、大好きなあのひとの痕跡。
嬉しかった。会えないときでも、彼がそばにいてくれる気がして。
けれど、同時に不安も募った。自分に会い続けることで、彼がどれほどのものを失っているのか。
逢瀬を重ねるごとに、彼の着物の袖が擦り切れていくのに気づいていた。帯の色が褪せていくのも知っていた。
──この関係は、いつか破綻する。
そう心のどこかで気づきながらも、少女は束の間の幸せを自分から手放せないままでいたのだ。
けれど。
彼女の予感は、残酷にも的中することとなる。
『……逃げよう』
初めて身体を重ねた、春の日の夜。
耳元で囁かれたその言葉が──束の間の幸福に終止符を打つ。
彼女は深い葛藤の淵に突き落とされた。愛する人の手を取るべきか、否か。
足抜けは御法度だ。捕まれば、女はひどく罰され、男は問答無用で死罪。
それは彼も分かっているはず。それでも誘ってくるということは──きっと、もう限界ということなのだろう。
