──やがて数年の月日が流れ、彼女が立派な『花』として街中に名を馳せるようになった、ある日のこと。
運命が、再び動き出す。
『……あの方、初見え?なかなか色っぽいじゃないの』
宴のさなか、隣に腰掛けていた同僚が、扇の陰でそっと囁いた。
促されるまま視線を向けると、そこにいたのは──
あの日。
別れも告げられぬまま、桜の下に置き去りにしてきてしまったあのひとだった。
呼吸が、止まる。
宴の喧騒から離れ、窓格子に寄りかかって、どこか疲れたような瞳で外を眺めるそのひと。
手にしていたのはあの日の笛ではなく、一振りの煙管で──
パッ、と。
天鷲翔のスポットと入れ替わるように、暗闇に鋭い光が落ちた。
そこに佇むのは──
皆戸遥風。
一振りの煙管を手に、どこか厭世的に目を細めるその仕草。目元に落ちる黒髪が、抗い難い色気を生む。
その視線がゆっくりとこちらに流れてきた途端──
ドクン、と。
心臓を鷲掴みにされたかのような、致命的な感覚が全身を貫いた。
諦念に沈んでいたその瞳が。
静かな暗さを纏っていたその表情が。
ふわ、と、光が差し込んだように変わる。
先ほどまでの佇まいからは想像もできない──今にも崩れそうな、切なく甘い微笑。
ほとんど十年越しの、ふたりの再会だった。
