『ってわけで……ラップやってみねえ?』
夕食後。
私は部屋でスマホを握り締め、遥風と遼次のやり取りを固唾を飲んで見守っていた。
というのも、遥風と話し合った結果、私はスマホ越しにただ『聞いているだけ』という立ち位置になったのだ。
遼次を助けることで彼に好かれたくない──そんな私の考えを伝えると、遥風は少し怪訝そうな顔をしつつも『お前がそう言うなら』と聞き入れてくれた。
彼なりに、何か事情があることを察してくれたのだろう。
『俺……てっきりパート奪われんのかと思って覚悟してたんすけど」
拍子抜けしたような遼次の声が、画面越しに響く。
遥風は、くつくつと軽く笑った。
『俺がそんなことするように見える?』
『はい、まあ』
『……』
遼次の即答に、黙り込む遥風。
思わず吹き出してしまいそうになる。
分かるよ、遼次。私も遥風の第一印象は『激怖DVヤンキー男』だったから。
『遥風くん、怖いうえに、意外と打算的なとこもあるし……てっきりそういう感じかと』
追い討ちをかけるように、さらりと言い放つ。
──うん、それに関しても全面同意。
例えば、彼らが話している場所。
わざわざ固定カメラのあるスタジオを選んでいる時点で、遥風の狙いはなんとなく予想がついた。
この機会を利用すれば、『遼次のピンチを救う頼もしいリーダー像』を視聴者にアピールできる──そんな計算だろう。
遥風は遼次の言葉を否定することもなく、ただあっさりと話を切り替える。
『……とりあえず、ラップに関してはどう?できそう?』
『一応、経験はあります。ってか俺むしろ、そっちメインでやってきてたくらいなんすよね』
遼次の言葉に、思わず息を呑む。
そっちメイン……?ラップが本業だったってこと?
確かにラップに向いていそうな声だとは思った。けれど、まさか彼がそんなバックグラウンドを持っていたなんて。
一次審査でも、そういうようなことを全く匂わせていなかったから意外だった。
