──運命が動いたのは、そんなある日のこと。
不意の強風が、少女の髪をまとめていた『赤い髪紐』をさらってしまった。
『あ……!』
空高く舞い上がったそれが、桜の下の彼の足元にはらりと落ちる。
笛の音が、止まった。
そのひとの手がそっと、髪紐をすくい上げ──
長い睫毛に縁取られたその美しい瞳が、こちらに向く。
視線が交錯したその瞬間。
言葉より先に、春の風が吹き抜けた。
──初恋。
黄金色の、追憶。
画面越しに、映像と台詞と音楽を交えて語られていたあの物語が。
今、目の前の栄輔くんの歌声、視線、そして一瞬ごとに揺らめく表情の色──そのひとつひとつによって、段違いの鮮明さを持って、脳内に溢れ出してゆく。
な、何これ…………。
映画を見た時は、完全に他人事として俯瞰できていたはずなのに。
彼のパフォーマンスに当てられた瞬間、その『記憶』は恐ろしいほどの熱を持って、まるで自分自身が経験したことのように、鮮やかで輝かしい痛みとなって襲いくる。
桜の香り。
川風の冷たさ。
『冨上栄輔』という依代を通して、私はいま、あの春の日に立ち尽くしていた少女そのものにさせられているんだ。
切なくも幸福感に満ちた歌い出し──
けれど、この甘美な時間は、そう長くは続かない。
