──憑依型。
二次審査、三次審査と、彼の課題曲はどちらも爽やか系で、もともとの彼のイメージにぴったり合っていたため、そこまで衝撃的なギャップは感じられなかった。
けれど。
今回、彼の姿を目の前にして、恐ろしいほどに実感してしまった。
──彼の中に、誰か、いる。
そして、私はその子を、痛いほどによく知っていた。
『桜嵐』の主人公。
それも、まだ名も知られず、『花』として数えられる前の──無垢な少女期の彼女だ。
家でパソコン越しに何度も繰り返し履修してきたあの映像が、否が応でも脳裏にフラッシュバックしてくる。
──春。
暖かな陽射しが心地良いその季節になると、彼女は決まって川辺に足を運ぶ。
天気が良いから?綺麗な桜を見るのが好きだから?
もちろん、それもある。
けれど、何よりもいちばんの目的は──
あの美しい『笛の音』を聴くため。
何かを讃えるでもなく、悲しみに沈むでもなく、ただ春の流れに寄り添うみたいな──心地良い、静かな音色。
……なんて、優しい音を奏でるひとなんだろう。
少女は息を潜めたまま、桜の陰に身を隠して、じっと耳を澄ませていた。
声をかける勇気なんて微塵もなかったけれど、それでも良くて。
ただ毎日、毎日、そのひとのために。
桜吹雪の中に立つ、その凛とした横顔を、こうして見守ることさえできれば──
それが、彼女にとっての幸せだったのだ。
