反射的に、『なわけ』と否定ようとしたが、その言葉を飲み込む。一応、私、この人に弱み握られてるんだよね。

万が一何かあった時のために、さりげなく媚びを売っておいた方がいいかも。
実は尊敬してるのも、本当のことだし……いつも苦労してるリーダーに、ねぎらいの言葉でもかけてあげるか。

「……うん」

私の頷きに、遥風は驚いたように目を見開く。

「人のこと怒るのって嫌でしょ」

「……まあ?」

私の言葉に、感情を抑えるようにして頷く遥風。

「けど、グループが崩壊しないように、わざとそういう役割担ってくれてるの本当ありがたい。けど、遥風だけに負担が集中しないようにこっちもやれることはやるから」

そう言って遥風に笑いかけると、彼はちょっと息を呑んだ。その頬に、薄く赤い色が差した気がした。

けれど、彼の表情をきちんと確認する前に、乱暴に肩を抱き寄せられる。

「お前、まっじでかわいー奴」

げっ、距離近い……。
鼻腔をくすぐる、柑橘系のいい匂い。

最近ずっと一緒にいすぎて、この匂いを少しでも感じただけで条件反射で遥風と結びつくようになってしまった。

内心ドキドキしつつ、表情には出さないように耐える。

「てかお前、年頃の女子なのに彼氏とか欲しくねーの?俺がなってやろうか?」

揶揄うような笑みを浮かべてそう言ってくる遥風を、ちょっと睨む。

「その顔ならもっと良い子狙えるでしょ。離れて」

強めに押しやると、遥風は少し不本意そうに身を離す。私はちょっとため息を吐きつつ、話を戻した。

「で、遼次にどういうふうに提案するのか、って話だけど……」

淡々とした私の口調に、遥風もふざけた態度を一旦切り替えて、真剣に聞き始める。

こうして、私たちは休憩スペースで軽く作戦を立て──
今日の夕食後に実行することにした。

果たして、どれだけ上手くいくかな。