「灰掛遼次が高音出なくなったの、サボりのせいじゃないっていうのは……分かるよね?」
私の言葉に、遥風は軽く頷く。
「あの掠れ方は、多分喉が潰れたんだろうな。無理な音域を出そうと喉を酷使した時になるやつ。俺も経験あるから分かる」
そう。一次審査での遼次の様子を見るに、彼は相当プレッシャーに弱く、真面目で繊細。
そんな彼だから、ミスしたらすぐに揚げ足を取られ、いつ引きずり下ろされるか分からない今の状況で、毎日練習に励んだのだと思う──それも、過度なくらいに。
その結果、喉を壊してしまったんだろう。
けれど、高音パート以外の歌唱は問題なくこなせていた。高い声が出せないだけで、歌えないわけではない。
だとしたら──
「遼次に、ラップをやらせてみるのはどう?」
私の言葉に、遥風は軽く目を見開いた。
突拍子もないアイデアに聞こえると思う。
けど、私はもとから、遼次の声がラップに向いていそうだなって思ってた。
聴く者の耳にスッと溶け込む、セクシーで、穏やかで、芯のある声質。
ピロートークなんかにぴったりな、ザラついた中音域ハスキー。
黒羽仙李を擁する伝説のグループ『Schadenfreude』のラッパーを務めていた、風浦巽の声のような、そんな印象。
「……リスキーすぎね?まず、遼次がラップやったことあんのかも分かんねーし、歌詞のリズムが変われば振り付けも変えなきゃいけなくなる」
「分かってる。才能があるかどうか、ちょっと試してみたいだけ。無かったら、大人しく琥珀に譲らせるけど……もしいけそうだったら、リリックも俺が書くし、振りも俺が付け直すから」
言い出しっぺなんだから、もちろん責任は全部取るつもり。まだ本番まで2週間あるのだから、多少の変更なら間に合うはず。
そう言うと、遥風は少し呆気に取られたあと、ふっと苦笑した。
「お前さ、1人で抱え込みすぎだろ」
……いや、遥風には言われたくないんだけど。
グループの危険因子を潰して回って、未熟なメンバーのダンスや歌もつきっきりで指導して。
彼の負担をこれ以上増やしたくないから、私が全部やるって言ってるのに。
「遥風はもう、メンバーのケアしたり練習見たりで手一杯でしょ。これ以上面倒ごとを任せたくない」
私がそう反論すると、遥風はちょっと目を見開いて、その後少し嬉しそうな笑みを浮かべた。
「お前、だいぶ俺に懐いてるよな。実は結構俺のこと尊敬してたりする?」
揶揄うような遥風の言葉。図星を突かれて、ちょっと目を逸らす。
