彼が仲介を躊躇う理由を、なんとなく察することはできる。
パート分けのとき、『微妙だったら後から考える』と言ったのは遥風。
その発言の張本人が、遼次の擁護に回るのは矛盾が生まれ、一歩間違えれば『悪編』に繋げられる可能性がある。
それに加え、彼だってあまりカメラの前で怒りたくはないはず。ブチ切れシーンが多く放送されると、どうしても苛烈な印象が付き纏い、視聴者人気がつきにくくなるから。
けれど『グループのためなら』と思ったのだろう。キッと琥珀を睨みつけ、口を開きかける遥風。
──リーダーの遥風にばかり、負担を背負わせるわけにはいかない。
「明日までに治せなかったら、パート変更も考えよう。今日のところは保留。それでどう?」
反射的に口を開いていた。
驚いたように、遥風が私を見る。遼次は俯いていた顔を上げ、琥珀はつまらなそうに目を細めた。
「……明日まで?」
不機嫌な声音で聞いてくる琥珀。私は彼をまっすぐ見つめ返す。
「パート変更をするなら、できるだけ早い方がいいでしょ。だから猶予は明日まで。もっと長い方が良かった?1週間とか」
さらに悪い選択肢と比較させ、この条件が『いい条件』だと錯覚させる。
私の言葉に、琥珀はちょっと眉を上げると、少し考える素振りを見せる。
明日までなら、遼次の喉が治る可能性は低いという結論に至ったのだろう。数秒後、ニッと余裕たっぷりの笑みを浮かべる琥珀。
「そゆことね。ま、お姫様が言うならいーよ♡」
琥珀が引き下がったことで、他の参加者たちからホッと安堵のようなため息が漏れる。
「なあ、千歳……」
遥風が小声で話しかけてくるのを、私は手で制した。
「あとで話す」
ちょっと眉を上げるが、そのあとすぐに口元を緩ませる遥風。
そして、ポン、と頭に軽く手が乗る感触。
「助かった、ありがと」
……私が遥風をかばったこと、気づかれてた?
年下に庇われたことに対する不本意さも滲むぶっきらぼうな口調だけど、それ以上にどこか照れたような、嬉しげな遥風の表情。
少し恥ずかしくなって、俯く。らしくないことしちゃったかも。
いつもなら、自分に直接の被害がない時は傍観してることが多いのに……さっきは、遥風のためだけに咄嗟に口を開いてしまった。
一緒に行動しているうちに、情が移ったのかな。
私は雑念を振り払うように大きく息を吐く。
だから、感情に振り回されてちゃダメなんだってば、私。
しっかりしなきゃ。
少し目を閉じて気持ちを切り替えると、私は再び練習に戻った。
──その背中に、遥風の視線がじっと注がれていることには、気づかないまま。
パート分けのとき、『微妙だったら後から考える』と言ったのは遥風。
その発言の張本人が、遼次の擁護に回るのは矛盾が生まれ、一歩間違えれば『悪編』に繋げられる可能性がある。
それに加え、彼だってあまりカメラの前で怒りたくはないはず。ブチ切れシーンが多く放送されると、どうしても苛烈な印象が付き纏い、視聴者人気がつきにくくなるから。
けれど『グループのためなら』と思ったのだろう。キッと琥珀を睨みつけ、口を開きかける遥風。
──リーダーの遥風にばかり、負担を背負わせるわけにはいかない。
「明日までに治せなかったら、パート変更も考えよう。今日のところは保留。それでどう?」
反射的に口を開いていた。
驚いたように、遥風が私を見る。遼次は俯いていた顔を上げ、琥珀はつまらなそうに目を細めた。
「……明日まで?」
不機嫌な声音で聞いてくる琥珀。私は彼をまっすぐ見つめ返す。
「パート変更をするなら、できるだけ早い方がいいでしょ。だから猶予は明日まで。もっと長い方が良かった?1週間とか」
さらに悪い選択肢と比較させ、この条件が『いい条件』だと錯覚させる。
私の言葉に、琥珀はちょっと眉を上げると、少し考える素振りを見せる。
明日までなら、遼次の喉が治る可能性は低いという結論に至ったのだろう。数秒後、ニッと余裕たっぷりの笑みを浮かべる琥珀。
「そゆことね。ま、お姫様が言うならいーよ♡」
琥珀が引き下がったことで、他の参加者たちからホッと安堵のようなため息が漏れる。
「なあ、千歳……」
遥風が小声で話しかけてくるのを、私は手で制した。
「あとで話す」
ちょっと眉を上げるが、そのあとすぐに口元を緩ませる遥風。
そして、ポン、と頭に軽く手が乗る感触。
「助かった、ありがと」
……私が遥風をかばったこと、気づかれてた?
年下に庇われたことに対する不本意さも滲むぶっきらぼうな口調だけど、それ以上にどこか照れたような、嬉しげな遥風の表情。
少し恥ずかしくなって、俯く。らしくないことしちゃったかも。
いつもなら、自分に直接の被害がない時は傍観してることが多いのに……さっきは、遥風のためだけに咄嗟に口を開いてしまった。
一緒に行動しているうちに、情が移ったのかな。
私は雑念を振り払うように大きく息を吐く。
だから、感情に振り回されてちゃダメなんだってば、私。
しっかりしなきゃ。
少し目を閉じて気持ちを切り替えると、私は再び練習に戻った。
──その背中に、遥風の視線がじっと注がれていることには、気づかないまま。
