「はいありがとうございます、お気をつけてー」
「ありがとうございまーす」
運転手さんへのお礼だけは礼儀正しく残し、俺たちはタクシーから出た。
途端、頬を撫でるひんやりとした夜風。
その感触があの日の夜と重なって、何故か千歳くんの匂いを鮮明に思い出してしまう。
千歳くんの匂いガチ好きなんだよな俺……ミルクみたいに柔らかくて、桃みたいな甘さもあって。香水っぽくなくて清潔感あるのに記憶に残って……もう最早あんなん脳内麻薬だろ。
てか千歳くんに貸したブレザー、ちょっとその匂い残ってて最高だったんだよな。あの残り香だけで頭おかしくなりそうなのに、もし千歳くんと付き合ったりしたら近づき放題なわけで、匂いも嗅ぎ放題なわけで。そうなったら俺理性保てる自信ないってマジで。そう考えると手出した遥風の気持ちめちゃくちゃ分かっちゃうのが悔しい……。
と、そんな俺の変態思考を見透かしたのか、遥風がゴミを見るような目で見下ろしてきた。
「おい煩悩に駆られてないで早く案内しろ」
……さっきの京といい遥風といい、なんで俺が変なこと考えてたらすぐ分かるんだよ。煩悩センサーでも付いてんのか?
ちょっと鳥肌が立った腕を撫でつつ、「こっち!」と逃げるように早足で歩き出す。
一緒に帰ったのは結構前だけど、道はちゃんと覚えてる。断じてストーカーしようとかそういうんじゃなくて、もし万が一千歳くんに何かあったら困るなって思って覚えておいただけだ。
と、そんなふうに誰に言ってるのかも分からない言い訳をしながら、脳内に残る記憶を辿って千歳くんの家に向かった。
