「え、千歳くんは行くよなぁ?」

「行きませんよ。1人で行って1人で怒られてください」

「はぁー?なんやねんケチくさい。嫌いになんで?」

「ええ、ぜひ」

どこまでも子どもっぽい飛龍を軽くあしらう。

飛龍とはカメラの前でしか絡む機会が無かったから、妙に懐かれちゃってるんだよね。
いつかカメラの無い場所でガツンと理不尽暴言ぶつけとかないとな……。

そんなことを考えながら、練習に向けてシューズを履き替える。

ウォーミングアップをしていると、朝練のために次々とメンバーたちがスタジオにやってきた。

まず姿を現したのは、菅原琥珀。
いつものように3人の取り巻きを侍らせ、輪の中心で楽しそうに笑っている。

菅原琥珀──これまでの練習の様子を見る限り、このグループで一番の問題児である彼。

希望していたパートを遼次に取られた当てつけか、練習中はいつも露骨にやる気をなくしている。

それでも、遼次が少しでもミスをすれば、ここぞとばかりに取り巻きたちと執拗に責め立てる、そんなしょうもない奴。

遼次のパフォーマンスに比較的ミスが少ないことや、また遥風の激怖先輩オーラもあって、なんとか彼の暴走を抑えられてはいるが……そのうち絶対に何かやらかしそうで不安だ。

続いて入ってきたのは、小山明頼。スイモニのMVを凝視しながら入ってきて、スタジオ前の段差でずっこけそうになっている。

彼も、頭に血が上りやすい問題児ではあるが……私が何か言えば従順に聞くので、思ったより厄介な存在にはならなかった。

ただ、従順すぎて困ることもある。

例えば、数日前、練習後に寮棟の廊下でぶつかった時のこと。

『あっ、悪い……って、千歳くん?!だだだ大丈夫ですか?!」

『いちいちうっさいな。死ねよ』

『……ここから飛び降りたらイケる?いや、屋上からの方が確実か……』

『待って』

って調子で、もう多分、明頼はどう頑張っても嫌いになってくれない気がする……。
彼のデビュー可能性が低いからまだ良かったものの、もう同じようなことが起こらないように気をつけないと。

そんなふうに考えつつ、徐々にスタッフさんやカメラマンさんも入って人の増えてきたスタジオで黙々とストレッチを進める。

すると、私の隣に皆戸遥風が腰を下ろしてきた。