さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


「いや、これは琥珀くんだろ〜……」

「知名度のあるメンバーが歌い出しの方が良くね?」

「そうだよな。順位的に見ても琥珀くんの方が実力あるし」

すぐさま琥珀の擁護に回ったのは、戸塚仁、進藤祐希、相馬一斗。
つい先日、琥珀のインスタに『友達』として登場していた3人だ。

その露骨に媚を売るような態度に、私は少し違和感を覚える。

──まさか。

琥珀、自分の知名度をエサに、取り巻きを作ってる……?

ちらりと彼の表情をうかがう。

援護射撃を受けても、琥珀は特に嬉しそうな素振りを見せない。
ただ当然のように、軽く頷くだけ。

怪しい……。

でも、私情は抜きにしても。

この曲の雰囲気を作るのに合っているのは、おそらく遼次の声だ。
琥珀の声は少年らしいハイトーン寄り。
対して、遼次は中音域のハスキーな響き。

荒々しさと影を帯びたこの楽曲には、遼次の声の方がハマりそうな気がする。

「ってか、灰掛?だっけ。何位だよ、お前」

「……23位です」

「俺、8位だぜ? 目立ちたいからって、チームのバランス崩すようなことするなよ」

琥珀の棘のある物言いに、黙って俯く遼次。
私は慌てて2人の間に割って入る。

「言い争ってても時間の無駄でしょ。とりあえず、歌って決めよう」

私が仲裁に入ったことが意外だったのか、少し眉を上げる遥風。

琥珀は、鼻で笑いながら答える。

「いんじゃね?実力で決めるってなら」

自分がパートを勝ち取ると信じて疑わない態度。さすがに私も少し苛立ったけど、表情には出さないでおく。

こうして、琥珀と遼次の2人がパートをかけて争うことになった。