「…………最初は、つまらない表現をする奴だと思っていた」
彼の声には、爆発するような怒りはない。
代わりにあるのは──
ドロドロの膿みたいに、深く濁った嫌悪感。
声だけは落ち着いたトーンを保ったまま、ゆったりとこちらに歩み寄ってくる。
「ただ、ロサンゼルスで初めて気がついた──お前の存在は、侮辱だ。
私が十数年かけて作り上げてきた『作品』を、一夜で塗り替えかねない、脅威だ」
一歩、また一歩。
近づいてくる足取りはゆっくりだけど、そこにどうしようもない狂気と圧を感じ、恐怖で喉がヒュッと鳴る。
後ずさろうにも、身体をキツく縛り付けられているせいでかなわない。
そのまま、私のそばにまで歩み寄った睦は──
静かに、私の黒髪のウィッグを取り払った。
地毛の長い髪が、さらり、と頬にこぼれ落ちる。
「……仙李を奪った女に、よく似た顔だな」
その一言に、心臓が跳ねた。
……なぜ、彼が私をこれまでに毛嫌いしているのか、いまいち腑に落ちていなかった。
自分の信奉する仙李の血を引く私に、良い印象を抱いてもおかしくないはずなのに。
けれど──そうならなかったのは。
私が、女だったから。
睦はきっと、黒羽仙李を奪った女、桜井冬優を憎んでいたから──
彼女によく似た顔をした私に、嫌悪感を抱くのは当然だ。
