さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


BL売りって言っても限度ってものがあるでしょうに。

お願いだから、これ以上公式から爆弾を投下しないでください。事務所は未成年の繊細なアーティストをちゃんと守って……。

内心へとへとになりつつ、ふっと腕時計に視線を落とせば、もう日付はとっくに変わっていた。

今日は早く寝ようって思ってたのに、結局この調子じゃいつもよりずっと遅くになりそうだな……。

とはいえ、撮影を途中でブッチするわけにはいかないから、ここら辺でちょっと時間を潰してから戻るか。

と、そんなことを思いながら、廊下の脇に体をもたせかけ、ポケットからスマホを取り出した──その時。


ふわ、と。

何か薬品じみたような匂いが風に乗って漂ってきた。


……ん?


違和感に眉を顰めた時には──

すでに遅くて。


背後から、何者かの手がスッと伸びてきたかと思うと──

口元を、何か布のようなもので覆われた。


「っ……?!ん……っ……!!」


慌てて叫ぼうとしたけれど、力強い腕に口元を押さえられて敵わない。


そのうち、視界がぐらりと揺れて──

手元のスマホがするりと落ち、鈍い音を立てて床に転がる。


──や、ばい。

頭が、ぼんやりする。


心臓の鼓動だけが、遠くで聞こえて。

身体の感覚が、だんだんと離れていく。


こんなことが、大事な本番前日に起こるなんて。



私、やっぱ、死ぬほど運悪いな……。



と、そんな思考を最後に。


プツン、と。


意識を保っていた糸が、切れた。